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【廃用症候群】NTT東日本関東病院 リハビリテーション科(東京都品川区)

稲川利光部長とリハビリ風景
稲川利光部長とリハビリ風景(提供写真)
廃用リハビリが受けられる数少ない急性期病院

 廃用症候群(以下、廃用)とは、過度の安静や長くベッドで寝ていることによって生じる「筋萎縮」「筋力低下」「関節拘縮」「うつ状態」など、さまざまな心身の機能低下を起こした状態をいう。

 同科では脳卒中の急性期からがんの末期まで、1日に約200人の患者にリハビリを提供している。中でも最も多いのが廃用の患者で、約半数を占める。その早期退院(良い状態で自宅に戻す)に特に力を入れている。同科の稲川利光部長が言う。

「当院は急性期病院ですので、全体の平均入院期間は約10日です。しかし、高齢化が進み、『糖尿病』や『脳卒中』『心疾患』『骨関節疾患』などの持病をもつ患者さんが多く、がんや肺炎などで入院して治療が終わっても、廃用ですぐに自宅に戻れない患者さんが非常に増えています。どこの急性期病院も、いまその壁にぶち当たっています」

 廃用で日常生活動作(ADL)が不十分のまま自宅へ帰してしまうとどうなるか。結局、寝たきりになったり、転倒などの骨折で再入院を繰り返すことになる。

 同院では、廃用の患者が入院してきた場合、病棟の回診にリハビリ科スタッフも同行して、早期介入できるシステムができている。しかし、このように治療を受けながら廃用のリハビリが受けられる急性期病院は、まだ少ないという。

「廃用予防の基本は、呼吸、循環を含めた筋力や体力の維持ですが、入院すると筋力や体力が落ちて嚥下障害を起こす患者さんが非常に多い。そうなると食事量が減ったり、誤嚥性肺炎などから、さらに廃用が進む悪循環になります。ですから、患者さんの入院と同時に、まず飲み込みの評価と嚥下機能を低下させないためのリハビリをします」

■「病室」での行為が退院後に重要になる

 食事の栄養管理や口腔ケア(歯科)などに関しても、リハビリ科が総合的に関わっていく。運動だけでなく、日常の「顔を洗う」「トイレに行く」「売店やラウンジに行く」などの生活行為をきちんとやってもらうことが大切になるという。

「リハビリ室でやってもらう『できる動作』よりも、病室で『している行為』の方が退院後の生活では重要になります。ですから、どうすれば無理なく動けるか、手すりやベッドの高さ、ベッドの向き、移動の方法などを看護師さんと一緒に病棟に行って考えたり、環境を整えたりします」

 近隣に住む患者の場合、必要であれば退院前にリハビリスタッフが患者の自宅に出向き、その環境に合わせたリハビリを訓練の中に取り入れるケースもあるという。これらの体制によって、同科の廃用患者の平均入院期間は2013年度の34日から、現在は26日にまで短縮が進んでいる。

「ADLを高い状態にするだけではありません。退院時は、地域の介護保険を中心としたケアサービスにつなげて自宅へお帰ししています」

 リハビリを受けて退院される患者には、リハビリ科スタッフ一同からリハビリに励んでもらったことに対する「感謝状」と、「元気に乾杯!」と書かれた「缶バッチ」を一人一人に手渡しているという。

■データ
◆スタッフ数=医師1人、理学療法士22人、作業療法士13人、言語聴覚士8人、リハビリ助手2人
◆年間初診患者数(2015年)=3069人(うち廃用症候群=1600人)
◆廃用症候群の平均入院期間=26日