クスリと正しく付き合う

「命」と「お金」を秤にかけてはいけない

「お薬代が高くて……」

 患者さんの、こういった声を耳にすることがしばしばあります。風邪をひいて一時的に薬を飲む場合もあれば、持病を抱えて慢性的にずっと飲んでいる人もいます。誰しも、一生のうちで一度くらいは薬を使う機会があるものです。

 そんな薬の費用について、関心を持っている人は少なくありません。薬を服用している自分自身や家族を通して身近に感じているケースもあれば、ニュースなどの報道を通して気にかけている人もいるでしょう。

 最近では、肺がんや悪性黒色腫の治療薬「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)という超高額薬剤が話題になっています。

「1年間の使用で約3500万円かかり、その薬価が2017年2月から半額になる」というニュースを目にしたことがある人も多いでしょう。

 こうした「お薬代」は、国民の関心事であると同時に、国家の関心事であるともいえます。国家予算97兆円のうち約40兆円は医療費であり、そのうち約10兆円は薬剤費です。薬剤費には多額の「税金」が投入されているわけですから、関心を持つのも当然です。国がなんとか薬剤費を抑えようと躍起になっているのも理解できます。

 しかし、「薬は高いから使わない」といったような、「命」と「お金」を秤にかけるような極端な議論では医療は成立しません。最も重要なのは、「薬を適正に使う」=「ムダ遣いをしない」ことだと私は考えています。

 薬を適正に使用することで治療が適正化され、ムダな薬剤費が抑えられます。ひいては税金を通して国民全体に利益が還元されるのです。

 次回から、身近な薬の「適正使用」について紹介していきます。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。