独白 愉快な“病人”たち

大谷昭宏さん 病気で「死」に対する心持ちが変わった

ジャーナリストの大谷昭宏さん
ジャーナリストの大谷昭宏さん(C)日刊ゲンダイ
ジャーナリスト71歳<肝内胆管がん>

 自分が肝内胆管がんなのだと分かったときは、正直「やばい」という思いはありました。といっても遺書を書くなんてことは考えなかったですけど、「自分の死」を身近に感じたことは確かです。

 幸い早期に見つかったので助かりましたが、見つかりにくいがんなので、手遅れになる人が多いと聞きます。そういう意味では私の場合、主治医と検査技師の腕が良かったのだと思いますね。

 異変が見つかったのは、2014年5月に受けた人間ドックでした。実は私、年に2回、人間ドックを受けているんです。29年前フリーになったとき、かかりつけ医に「おまえはむちゃをするから年に1度じゃ足りない。2回やりなさい」と言われてね(笑い)。

 若い頃から不規則な生活をしてきましたし、たばこは毎日ショートピースを50本、酒量もかなり多めでしたから、決して大げさな助言ではなかったと思います。毎回、半日ぐらいかけて脳ドック、全身のCT、腹部と胸部のMRI検査をしていました。そしてあの年、「肝臓に怪しいもの」が見つかったんです。その時点で、医師は「ひょっとすると肝内胆管がんかもしれない」と疑ったようです。

 私がそれを知ったのは秘書からのメール。お昼の生番組の直前、「病院から“がんかもしれない”と連絡があった」との内容でした。そのときの印象は「あ、そうか」という程度。いつものように番組を終えて、病院に電話を入れました。それが6月の初めだったと思います。

「肝内胆管がんの疑い」を告げられ、大阪大学医学部付属病院を受診したのは6月12日。7月には各分野の専門医がチームを組んでの検査入院をしました。この病気は、肝臓の中にある胆汁を運ぶ管にできる悪性腫瘍。でも、結局のところ疑いは最後まで疑いのままでよく分からなかったんです。「開けてみてがんだったら当たり、がんじゃなかったらごめんなさい」ということだったんですけれど、腫瘍があることは間違いなく、「今なら手術で切れる」といわれたので切ることにしました。

 胆管がんは「切れれば助かる」と聞いていました。切れない場合は極めて危険な状態です。医師に「まれなほどの早期発見」と言われながらも、手術は肝臓の27%切除。その後、抗がん剤治療もありました。「症例が少ない病気なので臨床に協力してほしい」とのことで、抽選で、点滴ではなく飲み薬の抗がん剤を3週間飲んで2週間休むという繰り返しを半年間やってデータを取りました。

 副作用は、めまい、ふらつき、目の充血、倦怠感などですが、まぁそれは二日酔いで慣れているので大したことはなかったです(笑い)。ただ、鼻血は二日酔いにはない症状でした。

■3カ月に1回の検診と年2回の人間ドッグは欠かさない

 お酒は今も飲んでいますが、休肝日を週1日設けています。少量なら毎日飲んでもいいと考えるのは素人で、大事なのは週に1~2日は肝臓にアルコール処理をさせないことだそうです。

 やはり、この病気で一番怖いのは再発・転移です。今、3カ月に1回血管造影剤を入れて行う検診と、年に2回の人間ドックを欠かしていません。これだけ用心しているので、たとえ何かあっても早期に見つけられることは確実。おびえる必要はないと思っています。見落とされることがなければ、の話ですけどね。それはもう運命でしょう。

 新聞記者時代からずっと人の死と関わってきました。今日もどこかで事故にしろ、事件にしろ、亡くなる人がいて、ニュースで「死」を扱うことも多いです。誰でもいつか死ぬことは知っていますし、若い頃より死が近くなっているのは確かでしたが、病気をしてからは一層身近になりました。ちょうど抗がん剤治療の最中に東日本大震災の取材をしまして、それまでとは「死」に対する心持ちが変わったことも自覚しました。

 もうひとつ収穫だったのは、自分が視聴者にどう見られているかということです。この病気で7月下旬から9月下旬までレギュラー番組を休ませていただきましたが、それを事前に告げた際、病気のことを詳しく言わなかったので、たくさんの問い合わせがあったと聞きました。「大谷さんはどうしたんですか?」「大丈夫ですか?」という心配の声にまじって、「なぜ辞めさせられたんだ?」「いったい何をやらかしたんだ?」との問いが非常に多かったと(笑い)。こんなふうに見られていたんだなぁと分かって面白かったですし、あらためて仕事のやり甲斐を感じましたね。

▽おおたに・あきひろ 1945年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞大阪本社入社。大阪府警捜査1課担当などを経て87年に退社。大阪に事務所を開き、ジャーナリストとして活動。「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ、ラジオの出演多数。著書に「事件記者という生き方」(平凡社)などがある。