「身内のがん告知」に立ち会うとき気をつけるべきこと

大切なのは患者に寄り添うこと
大切なのは患者に寄り添うこと(C)日刊ゲンダイ

 いまや2人に1人ががんにかかる時代。身内にがん患者がいるのも当たり前で、健康な人が末期のがん告知に立ち会う機会が増えている。まして、現在の日本は生まれる人より死ぬ人が多い多死社会だから、今後、その回数が減ることはないだろう。そのとき、がん患者となった身内にどのような言葉をかけ、接すればいいのか? 「死にゆく患者(ひと)と、どう話すか」(医学書院)の著者で、日本赤十字社医療センター化学療法科の國頭英夫部長に聞いた。

■医師が伝える3つのこと

 多くの患者は「がん」と言われて、頭の中が真っ白になる。結局、自宅に戻ってから立ち会った家族に、「先生は何とおっしゃっていたっけ?」と聞き直し、改めてその家族の口から告知を受けるケースが少なくない。

「ですから、私はがん告知の際、3つだけに絞って伝えるようにしています。(1)がんという病気ではすぐには死なない(2)しかし、このがんは治らない(3)自分が主治医として責任を持つ――です。これを誤解のないよう、生きる希望を失わないよう話すことを心がけています。この3つが伝われば、まずは十分です」

 専門用語を並べて説明する医師もいるが、素人が詳細を理解するのは無理。告知に立ち会った人ががん患者に聞かれたら、「自分もよく分からなかった」と正直に言っていいという。

「ただ、余命宣告は別です。余命1年なら1年という言葉だけが独り歩きしてしまい、『1年半は絶対に無理だが、半年や9カ月は保証された』との誤った考えを持たれる恐れがあります。これはどちらも間違いです」

 そもそも、余命というのは一般的には「生存期間中央値」と呼ばれるものを指し、平均値とも違う。これを素人が理解し、人に正確に伝えるのは不可能。そもそも、病状も治療法も違う患者の死を予測できるはずもない。

「余命1年と言われたら、その意味は『過去の治療法を行った過去の患者さんの半分が1年以上生きたという統計数字で、これから治療を行うあなたの予測ではない。ただし、その間に何かあったらいけないので、長期ローンなどはしない方がいい』という程度に伝えていただければよいと思います」

■「頑張れ」はいけない

 (2)については、まず「治るというのは死なないことではない」と伝えることが大切だという。

「人間は必ず死にます。治ったがん患者の多くは別のがんになります。次の病気で死ぬとき、元の病気が再発していなかったら『治っていた』と判定するわけで、死なないことではないのです。だから『治るか、治ったかどうか』に、それほどの意味はありません」

 それを踏まえたうえで、がん患者には次のように話すとよいという。

「『治らない』というのは、この病気はあなたの『持病になる』ということです。高血圧も糖尿病も治りません。その証拠に皆、薬を飲んでいる。持病持ちというのは通院したり、食事制限したり、薬を飲んだりと生活が制限されてうっとうしいものですが、喘息や高血圧と同じように付き合っていかなければなりません」

 信頼できる医師に診てもらうのとそうでないのとでは、治療効果に大きな差が出ることは科学的にも証明されている。

「(3)については、ご家族から患者さんに『この先生が責任を持って治療すると言うのだから、信じてついていきましょう』と言っていただきたいですね。そのためには疑いの段階でかかりつけ医に相談して、『ここなら』という病院を紹介してもらい、検査の間に信頼関係を築き、告知の段階では『任せられる』と判断できていればいい」

 逆にやってはいけないのは「頑張れ」と口にすることだ。

「言葉をかける方は励ましのつもりでも、言われた方は、『頑張っていないから病気が進んでいるとでも言うのか!』と腹立たしく感じますし、自分だけが頑張らされるというような、孤独感や孤立感を持ちかねません」

 がん患者は、病気への不安から理不尽な怒りや悲しみを周囲にぶつけてくるがそれは気持ちを整理していく過程であることが多い。遮ったり、考えを変えようとするのも正しくない。

「あくまでも患者に寄り添うこと。患者さんの質問は、時に答えが欲しいのではなく、『応えてほしい』『話したい』という気持ちであることを知っておいてほしい」

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