有名病院 この診療科のイチ押し治療

【喀血のカテーテル治療】国立病院機構東京病院呼吸器センター(東京都清瀬市)

喀血部門の責任者の益田公彦医長
喀血部門の責任者の益田公彦医長(提供写真)

 同センターは、ベッド数300床、医師40人以上を有する国内最大規模の呼吸器センター。「腫瘍」「感染症」「びまん性肺疾患」「COPD」「喀血」の5部門で構成され、24時間救急体制で診療にあたっている。

 中でも特徴的なのは、全国でも珍しい「喀血外来」を置き、「気管支動脈塞栓術(BAE)」というカテーテルによる血管内治療ができること。その年間実施数は、世界で2番目に多い(1位は大阪・岸和田盈進会病院)。喀血部門の責任者の益田公彦医長(顔写真)が言う。

「せきやタンとともに血を吐く喀血は、主に『非結核性抗酸菌症』『気管支拡張症』『肺アスペルギルス症』『特発性喀血症』などの肺疾患によって起こります。治療は、止血剤で一時的に出血を止める対症療法が一般的に行われています。専門性の高い血管内治療のできる呼吸器内科医がまだ非常に少ないからです」

 喀血は出血量が少ないうちはいいが、肺病変からの大量喀血は窒息死につながる。そのような救急患者の場合、昔であれば外科手術で肺の切除、近年では放射線科が中心となり血管内治療が行われている。

■肺や気管の動脈径が1ミリを超えれば検討

 呼吸器内科が行うBAEのメリットは何か。

「私たちは喀血の患者さんを長い経過で診ていることが多いので、血痰症状が悪化してくれば『そろそろBAEをやった方がいい』と、計画的に治療ができるのです。出血に関与している気管支動脈などの太さが1ミリ以上になればBAEを検討します」

 BAEは局所麻酔で行う。太ももの付け根や手首の血管からカテーテル(細い管)を挿入し、3DのCT画像を見ながら出血部まで進めていく。さらに、髪の毛ほどの細いカテーテルを標的病巣まで先進させ、金属製のコイルを押し出す。するとコイルが丸まって血管をふさぐという治療法だ。所要時間は2~3時間。前日入院で、多くは治療の翌々日に退院できる。

「出血部にゲル状の薬剤を注入して血管をふさぐ方法もありますが、それだと薬剤が溶け流れて再喀血が起こりやすくなります。コイルを使った当科の場合、過去500例で見た全体の治療後1年の止血率は約90%です」

 ただし、感染症が原因の喀血の場合、その後の感染症の治療もうまくいっていないと止血率は落ちる。非結核性抗酸菌症による喀血の止血率は1年後で88%、3年後で75%。肺アスペルギルス症では1年後で75%、3年後で50%だ。

 BAEで起こりうる主な合併症は血管損傷(4~5%)だが、1週間ほどの入院療養で治癒する。BAE治療後は喀血だけでなく、約半数の患者がこれまで出ていたせきやタンの症状が改善するという。

「喀血があると精神的負担だけでなく、入院を繰り返すので経済的負担も大きい。侵襲の少ないカテーテル治療で症状が改善できることを多くの患者さんに知ってもらいたいと思います」

 喀血外来の診療日は毎週火曜日(予約制)。初診時に血管造影検査をして、その日のうちにBAEの治療スケジュールが立てられるという。

<データ>
 政策医療19分野における呼吸器疾患の基幹医療施設。
◆スタッフ数=約40人(うち喀血部門4人)
◆年間初診患者数(2015年)=3458人(うち喀血外来=約72人)
◆BAEの年間実施数=140件前後