作業療法士が徹底解説 快眠法のウソとホント<前編>

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 睡眠不足に悩む人が増えていることで、ちまたには睡眠に関する情報があふれている。快眠法を取り上げた書籍、熟睡できるとうたわれたグッズ、健康食品、サプリメント……。いったい何が“本物”なのか。全国で睡眠セミナーを開催している作業療法士の菅原洋平氏に聞いた。

 質の高い睡眠をとってぐっすり眠るためには、正しい知識を身に付け、勘違いを正す必要がある。快眠のウソ・ホントを徹底解説する。

①睡眠時間は8時間とらなければならない…×

「睡眠は一律に何時間とればOKというものではありません。年齢や季節によって必要な時間は変わるし、個人差もある。『8時間』という数字は、平均すればこれくらいの睡眠時間が望ましいという程度のもの。数字にこだわり、適切といわれる時間に合わせようとして、眠れないのに無理に寝ようとするのは逆効果になります」

 自分にとって必要な睡眠時間を把握するには、単純な睡眠時間ではなく「起床から4時間後に眠くなるかどうか」を目安にする。人間は、起床から4時間後に脳が最も活発になる。そのタイミングで眠気が出るのは、睡眠が不足しているということになる。

②寝る前は光を浴びない方がよい…○

 睡眠には「メラトニン」というホルモンが大きく関わっている。メラトニンは、日光や照明を感知すると減少し、暗くなると急速に増加する。家庭で一般的に使われている白色蛍光灯の明るさ=500ルクスの下に3時間いると、分泌されるはずのメラトニンが50%減るという報告がある。

「メラトニン分泌が抑制されると、睡眠の質は低下します。就寝時は寝室を暗くする人がほとんどでしょうから、帰宅してからベッドに入るまでの時間を過ごすリビングの明るさが重要になります。昼光色の蛍光灯を避けて電球色にしたり、部屋全体を明るくせずに手元だけを照らすルームライトにしたり、壁に電球色の電灯を当てる間接照明にするのも効果的です」

③起床直後は光を浴びる方がよい…○

 メラトニンは、朝にしっかり減らしておくと夜には増えやすくなる。

「メラトニンは網膜が光を感知した時点から分泌がストップします。寝る場所を窓際にしてカーテンを少し開けておけば、朝は自然と光を感知できるのでおすすめです。窓際で寝ることができない人は、朝、目覚めた時点でカーテンを開けて窓から1メートル以内に入ってください」

 ただし、光を感知させるのは起床から4時間後までがリミットになる。

■風呂から上がったら1時間はベッドに入らない

④寝る前に運動したほうがよい…△

 深部体温(内臓の温度)が高くなると活発になり、低くなると眠くなる。また、深部体温が最も上がった状態から、最も下がる状態までの“勾配”が大きければ大きいほど眠気は強くなる。

 運動は深部体温を上げる。そのため、就寝前に運動すれば、就寝時は急激に下がって入眠しやすくなり、睡眠の質も上がる。ただし、深部体温が最も上がった状態から最も下がるまでには1時間程度の時間が必要だ。

「就寝直前に体を動かし、深部体温が下がっていない状態でベッドに入ると寝つきが悪くなります。また、ジョギングやジムでの筋力トレーニングなどの激しい運動は、深部体温をよりアップさせるので、それだけ下がるまでに時間がかかる。熟睡するために運動するなら、就寝1時間前までに体がポカポカする程度の負荷にしておくのがおすすめです」

⑤風呂に入り、体が温かいうちに眠りにつくほうがよい…×

「体を温めてから寝たほうがいい」という考え方は間違っていない。就寝前に深部体温を上げておけば、就寝時は急勾配で下がって眠くなる。しかし、風呂やシャワーで深部体温を上げたら、下がるまで1時間は空ける必要がある。

「夜遅く帰宅してシャワーを浴び、寒いからといってすぐに寝床に入るのはNG。睡眠のためには風呂から上がったら時間を空け、深部体温を下げることが大切です。就寝が遅くなり睡眠時間が短くなっても、質はアップするので問題ありません」

 次週は後半5項目のウソ・ホントを解説する。

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