テストや検査で異常でも 医者の「認知症診断」増える誤診

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 認知症が広く知られるようになるにつれ、認知症でないのに認知症と診断されるケースが増えているという。どういうことか。

「別の医療機関で認知症と診断された」「認知症と診断され、薬を飲んでいる」などと来院した患者の中に、少なくない割合で、「認知症以外の患者」がいる――。こう指摘するのは、認知症の専門医である日本医科大学講師の上田諭医師だ。

 85歳のAさんは、突然訳の分からないことを言い出すようになり、トイレ以外の場所で排泄をするようになった。

 受診した病院の担当医はすぐにアルツハイマー型認知症と診断。家族がセカンドオピニオンのつもりで、上田医師の外来をAさんと共に訪れた。すると、検査から「訳の分からないことを言い出す」などの症状は、肝疾患である「肝性脳症」が原因と判明。肝疾患の治療のため、内科病院に入院となった。

 同じくアルツハイマー型認知症と診断された75歳のBさんは、上田医師が行った血液検査で誤診が明らかになった。

 Bさんは1年前から倦怠感が続き、1カ月前から物忘れがひどく、食欲が著しく落ち、救急車で運ばれた病院で認知症の疑いがあると診断されていた。血液検査の結果、認知症ではなく、甲状腺機能低下症と分かり、専門病院での治療が始められた。

 認知症は、記憶障害、日付や場所の間違い、家事ができない、道が分からないなどの「中核症状」と、うつ状態、怒りっぽさ、妄想、幻覚などの「周辺症状」が特徴だ。

 認知症の診断では、問診で中核症状や周辺症状をチェックし、MRIやCTの画像検査、長谷川式など認知症診断のためのテストが行われる。しかし、これらだけで単純に認知症を判断しようとすると、重要な「大原則」が抜け落ちる。

「ほとんどの認知症は、周囲がはっきり分からないうちに症状が顔を出し、非常にゆっくりしたスピードで進行します。本人や周囲が困る症状として少しずつ顕在化する。これが大原則です」

 たとえ、中核症状や周辺症状と似た症状があり、画像検査や長谷川式テストで異常となっても、「大原則」から外れていれば認知症ではないのだ。

「Aさんの場合は、突然症状が出ていた。トイレ以外の場所での排泄は重度の認知症で見られますが、突然、出てくることはあり得ません」

 Bさんの場合も、ある時期から急に物忘れが目立つようになっている。さらに倦怠感や食欲低下も、認知症の初期や中等症では見られない。

 近年、認知症の誤診が増えている。認知症の症状がよく知られるようになり、専門医以外の医師が「この年齢で、この症状なら認知症」と安易に診断するからだ。

 高齢者は、風邪や栄養失調などちょっとした身体的不調でも、認知症にそっくりな記憶障害や妄想などが出ることがある。身体症状が悪ければ、長谷川式テストの結果も悪くなる。だからこそ別のさまざまな身体疾患を想定し、慎重に検査し、診断しなくてはならない。

「認知症の診断は、最終判断であるべきですが、それが抜けている」

 Aさんの場合は、もともと肝機能を患っていたのに、肝臓を調べずに認知症と診断されていた。不幸中の幸いで2人とも認知症治療はまだ始まっていなかったが、認知症と診断されて、薬を処方され、誰もその経緯に疑問を抱かなければ、今でも認知症として治療され続けていたかもしれない。

 私たちが自衛策として知っておくべきなのは、症状の表れ方だ。親と同居していなくても、たとえば「正月に会った時はまったく正常だったのに、ゴールデンウイークには会話がおかしくなっていた」というような場合は、認知症以外の病気が考えられる。

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