数字が語る医療の真実

乳がん検診2つの害 「偽陽性と被ばく」どう考えるべきか

 マンモグラフィーによる乳がん検診により、「乳がん死亡が減ることを示す研究がある」一方で、「その効果は小さく、質の高い研究に限ればはっきりしない面もある」というのが現状です。

 その小さな効果に対して、「害」のほうはどうなっているでしょうか。

 害については、2つの問題があります。マンモグラフィーで乳がんの疑いとされたにもかかわらず、精密検査でがんではないと診断される「偽陽性の問題」と、X線を使うことによる「放射線被ばくの問題」です。

 2009年のアメリカの報告では、40代の女性が1000人検診を受けると100人、60歳では80人の偽陽性者がいると報告されています。

 もちろん、最終的にがんではないと分かって安心といういい面もありますから、偽陽性くらいなら検診を受けるという人が多いかもしれません。

 被ばくの影響については、明確な研究結果は示されていません。しかし、少ない被ばくでもがんの危険が確率的に上昇するという仮定に基づいた場合、30代前半で比べて2倍、30代後半では5倍、乳がん死亡減少の効果が放射線被ばくによるがんの増加を上回るという微妙な結果です。

 40代では20~30倍、効果が被ばくの害を上回ると、乳がん診療ガイドラインに示されています。

 もちろんこれは乳がん死亡が検診によって減少するという前提に基づいており、30代では検診による乳がん死亡そのものが示されていません。

 30代の女性の乳がん検診の効果と害のバランスは十分議論できないというのが現状なのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。