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【ランニング障害】東京山手メディカルセンター・整形外科(東京都新宿区)

東京山手メディカルセンター・整形外科でスポーツ外来を担当する田代俊之医長(右)
東京山手メディカルセンター・整形外科でスポーツ外来を担当する田代俊之医長(右)/(C)日刊ゲンダイ
実業団陸上部のチームドクター経験者が担当

 近年のマラソンブームや健康増進の高まりから、週1回以上のジョギング・ランニングをしている成人は推定550万人。しかし、そのランニングのし過ぎが原因で足に痛みが出る人も少なくない。

 同科でスポーツ外来を担当する田代俊之医長(顔写真)は、同院に着任する3年前までほぼ10年以上、実業団長距離陸上チームのチームドクターを務めてきた。

 その実績から同外来を受診する3分の1は「ランニング障害」の患者で占められる。実業団、学生、市民ランナー、愛好家まで多数のランナーを治療している。

「実業団レベルになると、疲労骨折、シンスプリント、アキレス腱炎などの障害が多いのですが、一般の方で圧倒的に多いのは『腸脛靱帯炎』。通称『ランナー膝』と呼ばれる障害です」

■膝の痛みが出て早めに治療しないと復帰が大幅に遅れる

 症状は、地面を蹴ったときの足の曲がった状態から伸びるときに起こる膝の痛み。膝の外側を押すと痛み(圧痛)があるのが特徴だ。

 原因は、膝関節の外側には大腿骨外側上顆という出っ張りがあり、その真上を通る靱帯(腸脛靱帯)が膝を曲げ伸ばしするときに擦れることで炎症を起こし発症する。

「靱帯の摩擦が生じるのは、膝の屈曲角度が30度付近。そのため、一般ランナーほど発症しやすいのです。逆に、ハイスピードランナーは接地時の膝の屈曲角度がより深くなるので摩擦が少なく、起こりにくい。ただし、下り坂の練習では膝の屈曲角度が浅くなるので、どのランナーでも発症リスクが高くなります」

 ランニング習慣をもつ人は、少しくらい膝が痛くても無理して続けてしまいがち。しかし、膝が痛くなった時点で早めに受診して安静をとらないと、その後の治療期間を大幅に延ばしてしまうことになるという。

「治療から復帰までは、痛くなり始めてから練習をやめた期間の倍の時間が必要です。たとえば1カ月走ってしまったら、治すのに2カ月かかります。ですから、早く中止することが、最も早く治す近道なのです」

 治療は、安静を基本とし、安静時痛や歩行時痛があれば消炎鎮痛薬の湿布や飲み薬を使う。それと同時に腸脛靱帯の柔軟性を高めるストレッチを指導して、自宅で毎日続けてもらう。そして、2~3週間したら股関節の筋力訓練を開始。膝の圧痛が消え、痛みを伴うことなく筋力訓練ができるようになったらランニングを再開する流れだ。

「スポーツ障害の復帰プログラムの多くは、遅いスピードから始め、徐々にスピードを上げていきますが、腸脛靱帯炎の場合は逆。速いスピードの練習から始め、徐々にスピードを落として距離を延ばしていくことがポイントになります」

 ランニング障害の治療では、これらの病態を患者や指導者に十分理解してもらい、再発しないように時間をかけて最後まできっちり治し切ることが重要という。

「ランニングはすべてのスポーツの基本でもあり、障害が残ると、その後の運動習慣にも影響します。少しでも痛みなどの症状があれば、早くスポーツドクターに診てもらうことが肝心です」

■データ
旧社会保険中央総合病院。2014年にJCHO(地域医療機能推進機構)へ運営移管。
◆スタッフ数=常勤医師4人
◆年間外来患者総数(2015年)=1万522人
◆スポーツ外来の月間初診患者数=20人前後