原因は「人生」と「生活」 認知症の問題行動は抑えられる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 先日、兵庫県西宮市で認知症介護に関わるさまざまな人が集まる「かいご楽快」が開かれた。その中で注目を集めたのが、認知症の「問題行動」だ。

 認知症で家族が苦しむことのひとつに「周辺症状」がある。これは「問題行動」とも呼ばれ、目的なく歩き回る「徘徊」、便を触る「弄便」、便など本来は食べないものを食べる「異食」、暴言、暴力などがある。

 介護者が、介護している親や配偶者を殺害する「介護殺人」の報道でも、「問題行動に追い詰められて」といった話がよく出てくる。

 しかし、「生活とリハビリ研究所」代表で、認知症や介護の正しい情報を発信し続ける三好春樹氏(理学療法士)は、「問題症状は抑えられる。それだけで、『認知症介護は悲惨、地獄』とするのは間違い」と指摘する。問題行動はすべて認知症のせいにされがちだが、たとえば介護施設では、その日の担当者によって問題行動が出たり出なかったりするという。

「つまり、担当者の対応に問題があるか、相性が合わないか。問題行動の原因の9割は、『問題介護』だと考えています。問題行動は、『問題介護に伴う老人の問題心理』と捉えるべき」

 問題行動の原因のひとつにあるのが、「人生」だ。

 三好氏が特別養護老人ホームで宿直していた時、突然停電が起こった。施設には自家発電装置があり、モーター音が響いて非常灯がついた。すると、入所者である認知症の男性が廊下に飛び出し、大声で叫んだ。

「空襲警報発令! B29が来たぞ!」

 これを、三好氏は「認知症の問題行動とみなされがちだが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)ではないか」と言う。

「同様の発表は、介護の学会でもされています。認知症の方のこれまでの人生の中に、問題行動とされる行為の原因があるケースです」

 何かの拍子に過去の経験がよみがえる。しかし周囲は、問題行動と決めつける。場合によっては、「認知症の問題行動を抑えるために、薬の投与を」となる。三好氏によれば、「愚の骨頂」だ。

■排泄ケアがカギ

 さらに、「生活」にも問題行動の原因が潜んでいる。介護に関する報道などで、“介護地獄”の代表例として挙げられる弄便や異食の多くは、「生活」が関係している。

「認知症ケアで一番大切なのは排泄ケア。問題行動の半分は不十分な排泄ケアが直接のきっかけになっています」

 認知症になると、赤ちゃんの行動原理である「快・不快の原則」が目立ってくる。つまり、これまでは「不快でも我慢しよう」とされていたようなことが、「不快だから何とかしよう」に変わる。

 年を重ねると、内臓機能の衰え、活動量の低下などで便秘になりやすい。便秘が続くと、当然ながら、不快感が増す。オムツをつけている人では、オムツに便がたまると、やはり不快だ。

「快・不快の原則でいけば、便秘で苦しければ、それをなんとかしようとする。赤ちゃんならオムツに手が届かないが、老人は手が届くので、オムツにたまった自分の便を取り出し、あちこちになすりつけてしまう」

 便を食べる異食についても、赤ちゃんが視野にあるものになんでも興味を示して口に近づける(口唇時期)のと同様、取り出した便に関心を持ち、口に近づける。

「弄便や異食が起こっても、まずは落ち着く。その原因が不十分な排泄ケアにあるなら、それを改善し、“快”の状態に持っていけば、弄便や異食も起こらなくなる」

「かいご楽快」に参加していた介護従事者に聞くと、三好氏の言葉通り、「原因を探り、自分の接し方を変えれば、問題行動が収まった」との回答が多かった。

 問題行動を嘆く前に、やることはたくさんある。

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