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【心房中隔欠損症】東邦大学医療センター 大橋病院・循環器内科

東邦大学医療センター 大橋病院・循環器内科の原英彦准教授
東邦大学医療センター 大橋病院・循環器内科の原英彦准教授(C)日刊ゲンダイ
カテーテル手術で負担が大幅軽減

 心房中隔欠損症(ASD)は、心臓の右心房と左心房の間にある壁に、生まれつき穴が開いている疾患。日本での発症頻度は、年間約100万人の新生児のうち約1000人。息切れ、動悸、疲れやすいなどの心不全症状が中心だが、乳幼児期には症状がほとんどなく、心雑音も弱いので見逃されやすい。そのため、大人になってから症状の出現や人間ドックなどで見つかるケースが多い。同科の原英彦准教授(顔写真)は、国内の循環器内科医では最初にASDに対するカテーテル治療を始めたエキスパートだ。

「ASDのカテーテル治療は、欧米では1970年代から始まっていましたが、国内で認可されたのは2005年で小児科からスタートしました。それで、成人に対応できる循環器内科による治療が求められ、2010年から始めました。従来は開胸する外科手術しか治療法がなかったので、患者さんの体の負担が格段に少ない治療ができるようになったのです」

 カテーテル治療は、局所麻酔で太ももの付け根の静脈から2~4ミリ径のカテーテル(細い管)を2本挿入して行う。

 1本は心腔内エコー用で、もう1本は先端に穴をふさぐ器具(折り畳み式の閉鎖栓)が付いている。それを心臓まで進めていき、エコー画像を見ながら穴の開いた部分に器具を挟み込んで閉鎖する。治療時間は、心内圧測定や酸素飽和度測定などの検査を含めると1時間半くらいだが、実際に穴をふさぐのにかかる時間は正味20分ほどだ。前日入院で3泊4日。退院後は血栓予防のために抗血小板薬を半年服用するという。

「息切れ、動悸、疲れやすいなどの心不全症状が出たり、心エコー検査で右心室の拡大が始まったらカテーテル治療の対象になります。適応基準に年齢制限はなく、体重が15キロ以上、高齢者でも受けられます。ただし、穴の位置が通常と違う場所にあったり、器具を挟む部分が少ない症例では適応外です」

 現在、国内のASDの年間治療数は外科手術が約1300例で、カテーテル治療は約1100例。外科手術となると、全身麻酔で人工心肺を使い心臓に直接メスを入れるので、どうしても手術関連死(年間2~3人)や合併症のリスクは高くなる。

■8割以上が症状改善・完治可能

 一方、いま国内でカテーテル治療ができる認定施設は60病院あり、2005年からの全約8000例の治療関連死はゼロ。主な合併症の発生率は、器具が大動脈にこすれて出血する「侵食」(緊急手術が必要)が0・2%前後。器具が外れる「脱落」が0.4%という。

「当科の2010年からの実施数は150例。改善率は、画像上で心臓の拡大が改善するのは全例、8割の患者さんは症状が改善します。25歳以下の患者さんの場合では、完治も期待できます」

 カテーテル治療の効果は若年層より、症状がはっきり強く出る高齢者の方が分かりやすい。不整脈や肺高血圧、心不全などの症状は相当良くなり、日常生活が楽になるという。外科手術に抵抗がある人、70代や80代で治療をあきらめていた人は、一度相談してみてはどうか。

<データ>
 東邦大学医学部の付属病院。新病院を建設中。
◆スタッフ数=常勤医師21人
◆年間初診患者数(2016年)=1123人
◆心房中隔欠損症のカテーテル治療の年間実施数(同)=27件