急性心筋梗塞でいざ胸骨圧迫! 専門医がポイントを解説

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 突然、胸部あたりに強烈な激痛を覚え、うめきながら倒れてしまう。声を掛けても反応はない――。“筋肉のポンプ”といわれる心臓から全身に血液を送り出している血管(冠動脈)に、血の塊(血栓)が詰まる「急性心筋梗塞」の症状だ。一次救命処置が遅れれば、命の危険にさらされる怖い病気だ。

 厚労省の調査(平成26年=人口動態統計)によると、急性心筋梗塞の発症者は年間19万6000人。そのうち、3万7000人が尊い命を落としている。

 がんとは違い、発病と同時に直接、命に関わる「急性心筋梗塞」は、発症するのは冬が多く、夏の「1.5倍」(東邦大学医療センター臨床生理機能学・東丸貴信教授)だという。

 家族の間で、このような恐ろしい病気が発症したらどう対処すべきか。帝京平成大学・健康メディカル学部の鈴木哲司准教授が言う。

「下手にタクシーや家の車で病院に搬送などはせず、迅速に119番通報をしましょう。救急車が自宅に到着する時間が全国平均で8.6分、病院収容時間は39.4分です。急性心筋梗塞は、発症1時間以内で半数が死亡します」

 心臓が止まると約15秒で意識が消失する。苦しみもだえていた患者が倒れたら、呼びかけるなどして反応を確認する。

「次に、胸やお腹の動きを見て、呼吸を確認します。感染の恐れや嘔吐物などでためらわれる場合は、人工呼吸を省略してかまいません。呼吸の確認に迷ったらすぐに胸骨圧迫をします。その一方で、119番で状況を簡潔に説明し、通信指令員の口頭指導に従って行動を起こすことです」(鈴木准教授)

 通信指令員が第一に指示してくるのは心停止に対する「胸骨圧迫による心臓マッサージ」だ。

「傷病者を硬い床にあおむけに寝かせて、胸骨の下半分(左右胸骨の真ん中)に手のひらの基部(手の膨らんでいる部分)を当て、その上にもうひとつの手を重ねます。重ねた手の指を絡ませるといいでしょう。ここで注意したいのは、指や手のひら全体で圧迫するのではなく、手のひらの基部だけで力が加わるようにしてください。圧迫する姿勢は、垂直に体重が加わるように両肘を真っすぐに伸ばし、圧迫部位の真上に肩がくるような姿勢が望ましい」(鈴木准教授)

■迷いや遠慮はいらない

 胸部を圧迫する深さとテンポについては、次の点に注意する。

「洋服を着せたままでいいので、傷病者の胸が5センチ以上、6センチを超えない程度で強く押します。圧迫する深さが足りないと、十分な効果は得られません。1分間に100~120回ぐらいのテンポで行ってください」(鈴木准教授)

 仮に傷病者がペースメーカーを装着していたり、子どもであったりしても、圧迫する力は遠慮しない。

 とにかく胸骨の圧迫による心臓マッサージは、救急隊員が到着するまで休まずに続けることだ。もし周りに人がいたら1~2分程度で交代し、救急車が到着するまで続けること。

「胸骨が折れることを心配して、力を入れない人がいますが、緊急事態です。遠慮はいりません。骨は折れても元に戻せますが、心臓が止まればおしまいです。一般人が心肺蘇生しなかった場合の1カ月後の社会復帰率は4.3%に対し、実施した場合は10.8%と2倍以上という統計もあります。また、AED(自動体外式除細動器)の使用もためらってはいけません。救急隊員が電気ショックを行った場合の1カ月後の社会復帰率は18.9%に対し、一般人の場合は43.3%にも達します」(鈴木准教授)

 急性心筋梗塞患者の多くは50代以上と中高年が多い。多死社会の日本だからこそ、心肺蘇生は誰もが知っておくべきだ。

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