天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

高血圧の放置が悪循環を招く 「腎臓と心臓」の密接な関係

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 心臓疾患は60歳を越えてから増え始め、80~89歳で最も多くなります。高齢になるにつれ、心臓にトラブルが発生しやすくなるということです。高齢になると、心臓以外にも病気を抱えているケースがグッと増えます。そのため、高齢化が進んでいる近年は、心臓手術を受ける患者さんは、他の病気を合併している状態が当たり前になってきています。当然、治療するに当たっては、心臓だけが悪い患者さんよりも注意しなければなりません。

 がんや糖尿病など合併している病気はさまざまですが、中でも外科医が手術をする際、最も気にかけるのが「腎臓」です。最近は「心腎連関」という言葉が注目されています。心臓疾患と腎臓疾患はお互い、密接に関係していることがわかってきているのです。

 日本では、高血圧が心臓疾患をはじめ、さまざまな病気のベースになっているケースが非常に多く見られます。血圧というのは、高い状態が長ければ長いほど動脈硬化が進み、血管も傷みます。そして、血管が傷めば重要な臓器がダメージを受けることになります。そして、高血圧は特に腎臓に対して大きなダメージを与えるのです。

 腎臓は、血液を濾過して老廃物や塩分を尿として排出する役割を担っています。また、血圧をコントロールしたり、赤血球を増やすホルモンを産生する機能もあります。腎臓の機能が衰えると尿が出なくなり、老廃物や毒素が体にたまって尿毒症を起こし、最悪の場合、死に至ります。それくらい重要な臓器です。腎臓が血液を濾過する機構は「ネフロン」と呼ばれ、腎臓には100万個以上のネフロンが存在しています。

 血圧が高い状態が続くと、このネフロンが障害されて減少し、腎臓の構造そのものが衰え、薄っぺらい状態になってしまうのです。もちろん、そうなれば腎臓の機能は低下します。

 腎臓は「薬の代謝」も行っています。服用した薬が効果を発揮するには、腎臓の働きが不可欠です。高血圧の患者さんは降圧剤を服用したり、塩分制限で血圧をコントロールしたりするケースがほとんどです。しかし、腎機能が低下すると薬の効きが悪くなったり、塩分の排出がうまくいかなくなったりで、血圧をコントロールしにくくなってしまいます。そうなると、血圧が高い状態が続くことになり、ますます腎臓がダメージを受ける……という悪循環に陥ってしまうのです。

 腎臓がダメージを受けると、それによってさらに動脈硬化が進みます。動脈硬化が進めば、今度は心臓の筋肉が厚くなって、心臓そのものが弱っていきます。心臓が弱ることで起こる心筋、冠動脈、弁膜などの心臓疾患は、心臓以外の合併疾患があると重症化しやすいこともわかっています。

 高血糖や高コレステロールもそうですが、腎機能の低下もこれに該当します。高血圧、腎臓疾患、心臓疾患はすべて密接につながっていて、どこかのバランスが崩れるとドミノ倒しのように、すべてが悪化してしまうのです。

 腎機能の状態は、血液検査でわかる「血清クレアチニン値」や「GFR(糸球体濾過量)」という数値を見ます。人間ドックや健診などで、「腎臓の機能が落ちている」と指摘されたことがある人は、生活習慣病の予防にしっかり努めてください。とりわけ、血圧の管理に注意する必要があります。

 心臓が悪い人も、まずは腎臓の管理が優先されます。腎機能が低下している患者さんの心臓を治療したことによって、腎臓の状態がさらに悪化してしまう危険があるからです。

 次回は、腎臓の状態が心臓手術に与える影響についてお話しします。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。