あの話題の治療法 どうなった?

前立腺がん ロボット支援腹腔鏡手術で問われる手術センス

 がん治療は手術・放射線・薬物療法の進歩から新たな時代を迎えている。泌尿器がんの手術についてはロボット支援腹腔鏡下手術が急速に広がっているが、限られた手術で、腹腔鏡下手術をはじめ人の手による手術が勝る部分もまだまだ多い。前立腺がんの腹腔鏡下手術では国内ナンバーワンの実績を誇り、2003年にアジアで初めてロボット支援腹腔鏡下手術を行った、東京歯科大学市川総合病院・泌尿器科の中川健教授に前立腺がんのロボット支援腹腔鏡下手術について聞いた。

「ロボット手術は経験の少ない医師にとっては良いシステムですが、患者さんにとって100点満点の手術になるとは限りません」

 手術における人とロボットとの違いのひとつに“触感”がある。

 人の手なら「硬い」「柔らかい」「頑丈」「もろい」によって対応を変えられるが、ロボットではそれができにくい。

「手術器具の都合からロボットは切る操作が中心ですが、腹腔鏡下手術では触覚があることで鈍的剥離という『はがす』操作やシーリングという封をして止血しながら切るという操作も容易に使い分けできます」

 ロボット支援システムには「触感」がない代わりに、3D画像など「視覚」優位性があった。ところが、いまや人が使う腹腔鏡も3D画像で見られるようになり、優位性が消えたという。

「もちろん、ロボット支援手術だと初心者でも手ブレがないぶん、縫合が容易ですし、先端の関節により届きにくい方向からの手術も可能です。しかし、ロボットアームにつけるエネルギーデバイス(止血装置)は人が行う腹腔鏡下手術のように最新型を使えなかったり、コストの面でバリエーションが限定されることもあります。ロボット手術支援システムというと日本では最先端の手術イメージがありますが、必ずしもそうとは言えないのです」

 そもそもロボット支援手術の技術は米国で20年以上前に開発されたもの。「20~30年で常識が変わる」といわれる医学では、すぐに評価が変わる可能性があるという。

「これまでのがん手術は切って取り出すが常識でしたが、今後早期がんは『凍結』『焼灼』して病変の消退を得る治療に変化するかもしれません。結局、変化に即座に対応できるのは人間なのです」

 このとき、高価なロボット手術支援システムを導入した医療機関は、患者にとって最も良い最先端の術式を採用できるかはわからない。

「私はロボット支援手術システムを否定しているわけではありません。手でできないことならロボットを使うべきでしょう。ただ、手術をする医師はどこからどうアプローチしていくのがその患者さんにベストかを瞬時に判断するセンスが必要で、それが問われる。そのためにはすべての手術を知ったうえで、術式を選択しなければなりません」

 ロボット支援手術しか知らない医師では心もとないということか。