風邪で「葛根湯」 効く人・効かない人の違いを医師が解説

体質が効き目を左右する
体質が効き目を左右する(C)日刊ゲンダイ

「風邪には葛根湯」と医者ですら言うが、専門家によれば、「葛根湯が向かない人」も、思っている以上にいるという。

 葛根湯を飲んでも効かなかった。こんな時、漢方薬にちょっと知識がある人は「飲むタイミングに問題があった。風邪のひき始めに飲まないと効かない」と指摘する。

 しかし、必ずしも正しくない。

「『風邪のひき始めに飲む』は、葛根湯に限らずほかの漢方薬にもいえること。葛根湯が効かないのは、体質に問題があるからです。つまり、葛根湯が効く体質でない人は、ベストのタイミングで葛根湯を飲んでも効きません」

 こう話すのは、筑波大学付属病院臨床教授の加藤士郎医師。葛根湯が効く典型的なタイプは、「日頃から体力があって暑がり」「風邪の症状として強い寒けがあり、首や肩が凝り、高めの熱が出る」、さらに「脈を強く打っている」。加藤医師によれば、こういう人が葛根湯を飲むと2日ほどで熱が下がり症状が改善する。

 一方、葛根湯が効かない典型的なタイプは、「日頃から体が冷えている。食が細い」「風邪の症状として寒けは弱く、発熱がさほど見られない。しかし冷えや脱力感があり、咽頭痛があったり、くしゃみや鼻水が強い」、そして「脈が弱い」。

■体が冷えている人は葛根湯の働きがムダに

 なぜ、体質が葛根湯の効き目を左右するのか? 簡単にいえば、ウイルスは発熱によって殺されるが、葛根湯はその働きをより強力にサポートする効果がある。ところが、そもそも日頃から代謝が悪く、体が冷えている人は、ウイルス感染で熱が上昇せず、せっかくの葛根湯の働きがムダになってしまうのだ。

 人間の体は、脳の視床下部で平熱が定められている。これを「セットポイント」と呼ぶ。ウイルスに感染すると、熱に弱いウイルスを退治するために視床下部の指令でセットポイントが上昇し、発熱。交感神経の末端からノルアドレナリンが放出され、血液循環がよくなる。すると、リンパ球が活性化され、病巣に集まる。やがて発汗が起こり、神経伝達物質のアセチルコリンが副交感神経や運動神経の末端から放出され、リンパ球に作用して免疫システムが働く。このようなメカニズムで、葛根湯がウイルスを退治する一連の流れによって、高熱が出る。

 葛根湯は7つの生薬(葛根、麻黄、桂皮、生姜、芍薬、甘草、大棗)で成り立っている。そのうちの麻黄がセットポイントの上昇に伴い体温をより上昇させる。そして桂皮と生姜がセットポイントを下げ、発汗や解熱をきたし、平熱に戻しやすくする。

「体力があり、暑がりの人は代謝が良く、『発熱でウイルスを殺す』といった免疫システムが強く働き、そこに葛根湯が加わることで、2日ほどで風邪が治るのです」

 さらに最近の研究では、①インターロイキン-1αを抑制②インターロイキン12とインターフェロン-γを誘導――の2つの働きも分かっている。①で細胞内でのウイルスの増殖を抑制し、②で免疫力を高める。

 葛根湯が効かない人には、小青竜湯や麻黄附子細辛湯が向いている。たとえば、くしゃみや鼻水が強ければ小青竜湯、冷えがあり咽頭痛があるなら麻黄附子細辛湯といった具合だ。

「ただし、風邪への処方は、漢方薬の中でも極めて難しいとされています。急性疾患なので、その時々の体質の見極めが非常に重要だからです。葛根湯が効かないタイプの人は、漢方薬の専門医に相談するべき。できれば風邪をひく前から、自身の体質を知っておいた方がいいでしょう」

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