クスリと正しく付き合う

「一包化」は漫然と同じ薬を飲み続ける危険がある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 薬の適正使用において、誰でもできて、しかし意外と難しいのが、「正しく飲む」=「コンプライアンスを維持する」ということです。簡単に言えば、「忘れず飲む」ことがそれに当たります。誰しも、うっかり薬を飲み忘れてしまったり、あるいは飲んだかどうかを忘れてしまったりという経験があるのではないでしょうか。

 飲み忘れを防ぐ工夫はさまざまありますが、よく用いられるのが「一包化」です。薬をたくさん飲んでいる患者さんに対し、薬局が1回に飲む分を1つの袋にまとめて、「朝食後」などと用法を印字してくれるものです。また、薬を小分けした後、ポケットの付いたカレンダーに収納するなどの工夫をしている方もいらっしゃるでしょう。

 一包化は、飲み忘れを防ぐためには有効な方法です。しかし一方で、効果を判断することなく漫然と同じ薬を飲み続けてしまう可能性を助長することもあるので、注意が必要です。

 先日、新規の患者さんの薬を調べていると、一包化の袋の中に通常は長期的に使うことのない鎮痛薬を発見しました。お薬手帳の情報によると、年単位で飲んでいるご様子です。

 患者さんにたずねてみると、「痛み止めは飲んでいないよ」とおっしゃいます。本人は、痛み止めを飲んでいると認識しないまま、5年以上も不要な薬を服用されていたのです。幸いなことに副作用は出なかったものの、適正使用や医療経済の観点からも、もっと早い段階で正すべき事例でした。

 一包化が必要な患者さんは、とりわけ薬の自己管理が難しい方が多いので、漫然と薬を使い続ける可能性がさらに高くなります。

 ご家族に薬を一包化して服用している患者さんがいるようなら、定期的に薬局で「中身の確認」を一緒に行うことをおすすめします。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。