ドライバーは知っておきたい これが大動脈解離の“兆候”だ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 クルマを運転中に心臓トラブルが発生し、そのまま暴走して周囲を巻き込む死亡事故がまた起こった。自分はもちろん、他人を犠牲にしてしまわないためにも、“サイン”を知っておきたい。

 3日、兵庫・尼崎市でデイサービス施設の送迎用ワンボックスカーが暴走し、4人が死傷する事故が起こった。尼崎北署の調べによると、運転していた58歳の男性は大動脈解離による病死だった。事故前に発症して、意識を失っていた可能性が高いという。

 1年前の同じ2月、大阪・梅田の繁華街でクルマが暴走して11人が死傷した事故でも、運転していた51歳の男性は大動脈解離を発症していた。いずれも50代で、同じ病気が暴走死傷事故につながったのだ。

 大動脈解離は、心臓から全身に血液を送り出す大動脈が突然裂けてしまう病気で、突然死するケースも少なくない。心臓に近い位置で解離が起こると、心臓や脳への血流が障害されて死亡リスクがさらに高くなる。50代以降に多く、中高年男性10万人のうち9~16人がかかるといわれている。決して珍しい病気とはいえないだけに、他人事ではない。

 血管内治療の権威で東邦大学医療センター佐倉病院・臨床生理機能学の東丸貴信教授は言う。

「大動脈解離は、高血圧が基礎疾患にある人、自分の両親や祖父母、兄弟といった近い家族に心血管疾患の既往歴がある人に多く見られます。冬はただでさえ血圧が上がりやすいうえ、クルマを運転する場合は車内と屋外の気温差が激しく、血圧が一気に変動して血管の負担が大きくなりやすい環境です。渋滞などによるストレスも受けやすく、これも血圧に影響を与えます。高血圧だったり、心臓疾患の家族歴がある人は、いつ自分が大動脈解離を起こしてもおかしくないと自覚して、定期的な検査や血圧のコントロールをしっかり行うことが予防の大前提になります」

 大動脈解離は、発症すると引き裂かれるような強烈な痛みがあるのが典型的な特徴で、9割以上の人が痛みを訴えるという。しかし、発症するまではそれほど自覚症状がない場合が多い。そのため、それまで元気だった人が突然、大動脈解離を起こして亡くなってしまうケースが起こる。まずは、日頃からの予防が重要なのはそのためだ。

■痛みや違和感が長く続く

 ただし、運転中に大動脈解離を発症して突然死したり、そのまま周囲を巻き込む事故を起こさないようにする手立てはある。

「大動脈解離が起こった場合の痛みは、比較的長く続くのが特徴です。心筋梗塞につながる狭心症による痛みの多くは30分以内に治まりますが、大動脈解離は30分以上続くケースが多い。解離が始まった場所が心臓より上に位置する上行大動脈にあると、持続的な胸痛があり、痛みは喉元から背中にまで広がっていきます。解離が下行大動脈の開始部分に起こる場合は、突然の背部痛から腰の方まで痛みが進行していき、解離が腹部大動脈まで及ぶと『全身を移動しているような痛み』を訴える患者さんもいます。いずれにせよ痛みがある時間が長いので、その段階で対処すれば突然死を防ぐ可能性が高くなる。死亡リスクが高い上行大動脈の解離でも、発症後24時間以内に手術をすれば80%、48時間以内で50%が助かります」

 また、軽い解離が起こった場合は、焼けつくような感じ(灼熱感)や圧迫感、手足のしびれ、めまいが生じるケースもあるという。

「運転中に胸や背中にいつもとは違う痛み、違和感を感じ、それが数分間続くようなら、すぐに運転を中断した方がいい。様子を見て治まらないようなら、早めに循環器科を受診してください」

 こうした“サイン”は大動脈解離だけでなく、急性心筋梗塞など突然死の可能性がある心臓疾患と共通している場合も多い。大事故を防ぐためにも覚えておきたい。

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