専門家に聞く 末期前立腺がん新治療「ゾーフィゴ」の威力

JCHO東京新宿メディカルセンターの黒崎弘正氏
JCHO東京新宿メディカルセンターの黒崎弘正氏(C)日刊ゲンダイ

「がんは骨転移したら鎮痛治療以外ない」――。あなたはそう思い込んでいないだろうか? しかし、こと前立腺がんについてはその考えを改めた方がいいかもしれない。ホルモン療法が効かない、骨転移の前立腺がんに対する新たな放射線治療薬「ゾーフィゴ」が昨年、認可されたからだ。従来の薬と違い、骨転移の激烈な痛みを抑えるだけでなく延命効果もあるといわれている。実際はどうか? 昨年8月から「ゾーフィゴ治療」をスタートさせたJCHO東京新宿メディカルセンター(東京・飯田橋)放射線治療科の黒崎弘正部長に聞いた。

「年末までにホルモン療法が効かない、骨転移のある前立腺がん患者さん14人に投与しました。その多くが痛みを軽減させたばかりか、うち2人の患者さんはPSA値(前立腺がんの腫瘍マーカー)が正常値である4ng/ml以下にまで低下しました。驚くべき成果です」

 前立腺がんは尿道を包む前立腺ががん化する病気で、進行すると骨に転移することが多い。

 70歳代のAさんは5年前に「末期の前立腺がん」と診断された。当時のPSA値は150.4で、前立腺に接する組織にがんが浸潤、リンパ節への転移が確認された。その後、ホルモン療法や「ドセタキセル」による抗がん剤治療などで懸命に延命治療を続けてきたが、PSA値が6.98と上昇してきたため、昨年8月にゾーフィゴ治療をスタート。4カ月半後にはPSA値が3.27にまで下がったという。

「この患者さんはゾーフィゴ投与の3年前から骨病変治療薬であるデノスマブと、低用量ステロイドのプレドニンを継続投与していますが、これまでの経過からゾーフィゴ投与がPSA値を下げたのは明らかです」

■鎮痛+延命効果

 ゾーフィゴはα線と呼ばれる放射線を出す「ラジウム-223」を含む放射線医薬品。ラジウム-223は骨に集まりやすく、注射で体内に投与すると多くはがんの骨転移巣に運ばれる。そこから放出されるα線によって、骨に転移したがんの増殖を抑える。

 ゾーフィゴが優れているゆえんはその破壊力にある。α線はβ線の7000倍の重量があり、目的物に衝突したときの放射線量は強烈。国際的な臨床試験では、ゾーフィゴを使用した患者は、そうでない患者に比べて生存期間が4カ月延び、30%の死亡リスクの低下が認められている。

「当施設でも『痛みを取る以外に治療法がない』と思われてきた患者さんに生存期間延長の希望が出たわけですから、朗報です。今後はゾーフィゴ治療に力を注いでいくことになるでしょう。前立腺がんは猛烈な勢いで増えており、国立がん研究センターの予想によると、今年中に前立腺がんを新たに患うと予想されている人は9万人余り。ここ10年で2倍以上に増えており、多くの人がその恩恵を受けることになるに違いありません」

 治療は簡単で、4週間ごとに1回の間隔で静脈注射を行うだけ。最大でも6回で済む。気になる副作用は貧血や下痢や嘔吐、食欲減退、骨痛、疲労など軽度なものが多い。

 いまは「がん=死」ではない。がんはいわば持病。完治は難しいかもしれないが、絶望する必要はない。がんがあっても長生きできる時代だということを忘れてはいけない。

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