天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓手術は人工透析患者より中途半端に腎臓が悪い方が難しい

順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 腎臓が中途半端に悪い患者さんよりも、人工透析の患者さんの方が治療を組み立てやすいのは、手術以外にも当てはまります。たとえば、抗がん剤治療や、利尿剤や抗生物質を使う薬物治療も同じです。人工透析の患者さんは、透析を受ける際に薬剤の管理ができますし、腎臓の状態もコントロールしやすいといえます。人工透析は患者さん本人にしてみればもちろんつらいのですが、医師から見ると管理しやすいのです。

 一方、慢性腎臓病の状態でギリギリ耐えてきたような患者さんは、うまくコントロールできていない状態を長く続けてきたことになります。腎機能が衰えている上に、他の病気の治療によって、さらに悪化する可能性が高くなってしまいます。

 しかも、腎臓が中等度くらいに悪い患者さんは、悪い状態だという自覚がない場合がほとんどです。完全に尿が出なくなってしまって、人工透析を受けなければ尿毒症で亡くなってしまうようなレベルであれば、本人も深刻に受け止めます。しかし、中等度の患者さんは1日に1500㏄くらいの尿が出ていて、食べ物に多少気を付けるぐらいの食事指導を受けている程度といったケースが多いので、それほど重症には考えていないことが少なくないのです。

 腎臓疾患はそれ自体も深刻な病気ですが、血圧のコントロールを悪くしたり、動脈硬化を進めたり、心臓も衰えさせます。他の臓器の治療にも悪影響を与えます。「腎機能が悪い」と指摘されている人は、しっかり管理する必要があります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。