「人生でこれだけ泣けるのかって思うくらい泣いたね」
歌手の和田アキ子さん(66)がバラエティー番組で、36年前にがんを宣告されて子宮を全摘されたいきさつを語り、つらい心境を吐露していました。
子供が欲しくて検診を受けたら、がんが見つかり、子宮を全摘したそうです。当時30歳。妊娠適齢期です。女性なら涙を流すのは当然でしょう。
■ウイルス感染が原因
子宮がんには、子宮の入り口にできる子宮頚がんと内部の膜にできる子宮体がんがあります。番組ではどちらか語っていませんが、発症年齢から推測すると、子宮頚がんでしょう。子宮内膜は生理ではがれて再生するため、閉経前に子宮体がんになるのはまれですから。
その子宮頚がんは、セックスによって媒介するHPVというウイルス感染が原因。セックス経験のある女性は、8割が生涯に一度は感染するといわれています。セックスの低年齢化もあって、子宮頚がんは30代前半が発症のピークで、若い女性が患うがんの最多が子宮頚がんです。
治療法は、欧米では放射線治療が主流ですが、日本では手術が第一。がんが子宮頚部に限られていて外に広がっていないⅠ期なら、5年生存率は9割ほど。治療成績は高いのですが、和田さんのように全摘によって出産できなくなることが最大のネックでした。
しかし、治療法が進んだ今は、子宮を温存して妊娠・出産を諦めずに済む治療法もあります。円錐切除術と広汎性子宮頚部摘出術です。
円錐切除術は、がんになる前の異型成とⅠa1期の場合。Ⅰa1期は子宮頚部に限局するがんの深さが3ミリ以内で、縦方向の広がりが7ミリを超えないもの。電気メスやレーザーメスで子宮の入り口を円錐型に切り取る手術です。
深さが3~5ミリ以内、縦方向の広がりが7ミリを超えないものがⅠa2期で、そのステージからⅠb1期(がんの深さが5ミリを超え、広がりが7ミリを超える)までのケースに行われるのが、広汎性子宮頚部摘出術です。子宮頚がんは一般に子宮体部に広がる可能性が少ないため、子宮体部を残しつつ、子宮頚部や膣の一部を含めて骨盤の近くまで切除します。
■ワクチンで予防可能
いずれにしても命を犠牲にして出産するための治療ではありません。特に広汎性子宮頚部摘出術では、慎重なチェックを重ね、病期のほかにも適応条件が複数設けられているのが現状です。
海外では、子宮頚がんのワクチン接種が進み、子宮頚がんは“過去のがん”になっていますが、日本はワクチン接種がストップし、がんの中で唯一死亡率が増加しています。ワクチンの副反応の症状は、接種と関係ないとされるだけに、心配な人は接種を検討するといいでしょう。欧米では、男性の接種が行われている国もあるのですから。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁