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【脳卒中のリハビリ】東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科(東京都港区)

退院後のやる気でその後の生活に差が…(右・東京慈恵会医科大学付属業院の安保雅博教授)
退院後のやる気でその後の生活に差が…(右・東京慈恵会医科大学付属業院の安保雅博教授)/(C)日刊ゲンダイ
9割の人は発症から何年経ってもマヒは改善する

 寝たきりになる原因第1位の「脳卒中」。患者の約半数は片マヒなどの後遺症が出て、発症から数カ月を超えるとリハビリをしてもマヒの回復は望めないと考えられている。しかし、その定説を覆し、世界的にも注目されているのが、同科の安保雅博教授(顔写真)が考案したTMS(経頭蓋磁気刺激)治療と集中的リハビリの併用療法「NEURO(ニューロ)」だ。軽度・中等度の後遺症であれば、程度の差はあるが9割の患者は発症後、何年経過していても改善するという。安保教授が言う。

「NEUROの適応基準はいくつかありますが、対象になるのは完全に能力が失われていない上肢マヒ、下肢マヒ、失語症などです。適応外でもボツリヌス毒素注射をして、筋のつっぱりが軽減して、ある程度の動作ができるようになれば適応になる場合もあります」

 NEUROは2週間入院して行う。「TMS治療」をした後に「集中的なリハビリ」をする組み合わせを毎日(日曜は休み)繰り返す。

■退院後のやる気でその後の生活に差が…

 TMS治療とは、磁場を発生する刺激装置に付いた専用コイルを頭に当てる療法。TMSは、もともと脳神経の走行を調べる検査機器だが、その磁場の刺激頻度を利用して脳の活動量を調節できる。治療中、患者は椅子に座っているだけで、痛みなどの苦痛は伴わない。

「例えば、脳卒中で左脳が障害を受けると、右脳が過剰に働き、左脳の働きは抑制されてしまいます。それを磁気刺激で右脳の過剰な働きを抑え、左脳を活性化させて、脳の働きのバランスを再構築するのです」

 TMS治療は、1日1回2400発の磁気刺激を40分くらいかけて行う。それによって脳の反応性が高まったところで、集中的にリハビリを行うのだ。リハビリの内容は何十通りもあり、後遺症の改善度に合わせて組み合わせを変えていく。そして、退院時には自宅でできるリハビリを指導して、日常的にリハビリを続けることが大切になるという。

「NEUROでせっかく改善した手足の動きも、退院後に使っていなければ元のマヒした状態に戻ります。69歳以下、70歳代、80歳以上で比較しても年齢では改善度は変わりありません。改善度に最も関係するのは、患者さんの“やる気”です」

 関連病院を含めた過去1726例でまとめたデータを見ても、TMS治療の副作用は、ほとんどない。

 めまいや不快感、頭痛などを感じた患者が22人いたが、治療をやめるほどの症状ではなく、治療を途中でやめた脱落者はゼロだ。

 同科が2008年から本格的に始めたNEUROの実施数は慈恵医大本院で約600例に上る。いまでは同科と提携してNEUROを行っている医療機関は全国に24施設ある(所在一覧は同大・リハビリテーション医学講座のHP参照)。

「脳卒中のリハビリは、脳機能の活動をとらえるファンクショナルMRIなどが進歩した2000年ごろから大きく前進しています。NEUROは脳画像の解析をもとに行うリハビリです。過去の脳卒中後遺症が回復せず、あきらめていた人でも改善する可能性は十分あります」

データ
◆スタッフ数=常勤医師6人、理学療法士19人、作業療法士7人、言語聴覚士3人
◆年間治療延べ患者総数(2015年)=約7万人
◆TMS治療の年間実施数(同)=57人