天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

冬場の便秘に悩む高血圧の人は花粉症になりにくい可能性

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 2月に入り、そろそろ花粉症の季節になりました。実は私も40年ほど前からハウスダストによるアレルギー性鼻炎の診断を受けていて、この10年はスギやブタクサなどの花粉症に悩まされています。

 ただ、まったく症状が表れなかった年がありました。数年前、私は慢性甲状腺炎による甲状腺機能亢進症を患いました。発症したのは1月末のことです。当時は、治療のために甲状腺機能をコントロールする薬を服用していました。この薬は、適量を徐々に使わないと白血球が減少して免疫不全の状態になってしまうような非常に重篤な副作用を起こすため、主治医が2~3カ月かけて慎重にコントロールしながら服用しなければなりません。私も数カ月かけて服用を続けました。

 その年は1月後半から花粉が飛び始めましたが、例年、悩まされる花粉症のつらさを感じることがありませんでした。喜んでいたのですが、「ああ、そうか」と、すぐに甲状腺機能亢進症のためだとピンときました。

 甲状腺機能が活発になると、甲状腺ホルモンの分泌量が過剰になります。すると、副腎髄質ホルモン「カテコラミン」の受容体の感受性が高まって作用を増強するといわれています。カテコラミンは、カテコールアミンとも呼ばれる副腎髄質ホルモンで、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質の総称です。心拍数を増加させて血圧を上げたり、血糖値を上げるなどして、ストレスに立ち向かう態勢を整える働きがあります。また、腸管にも収縮作用を示すため、必ずと言っていいほど便秘します。同時に血管に作用して収縮させる働きもあることから、花粉症の症状を引き起こす目や鼻の粘膜で充血がコントロールされ、症状を抑えるのではないかと私は考えています。

■カテコラミンが影響する

 実際、その年に「もう花粉症は治ったのかな」と思っていたら、甲状腺機能をきちんとコントロールできていた翌年は、しっかり花粉症の症状が表れました。これは自分自身で人体実験をしたようなもので、もちろん“教科書”には載っていません。

 この実体験をベースに考えてみると、「高血圧で冬場に便秘になりやすい人は、花粉症の症状が表れにくい、もしくは軽症で済む」といえるかもしれません。血圧が高くなる状況というのは、アドレナリン=カテコラミンの分泌が多くなってその作用が強まっています。そうなると、前述のように便秘が激しくなるのです。そのため、脱水状態になりやすい冬場に便秘が助長される高血圧の人は、アドレナリンの血中濃度が高く、花粉症が抑えられる可能性があるといえます。

 逆に血圧がしっかりコントロールされていて、便通がきちんとある人は、ひょっとしたら花粉症の症状が出やすいと考えられます。

 他にも、「お風呂に入りながらよく通る声で歌を歌う人は、もしかしたら花粉症が表れにくい、または風呂場では花粉症が治まってしまうタイプ」かもしれません。声がよく通るということは、気道がしっかり拡張しているということです。カテコラミンはβ受容体に作用し、β受容体は気道や血管に分布しています。つまり、風呂場でよく通る声で歌う人はカテコラミンの作用が強くなり、花粉症が抑えられる可能性があるといえるのです。

 もちろん、これはあくまで私の仮説であって、花粉症対策のために意図的にカテコラミンの分泌を増やしたり、作用を増強したりすることは現実的ではありません。仮にそのために薬を使って甲状腺機能を高めてしまうと、心房細動の副作用を起こす可能性があります。そうなると、脳梗塞の発症リスクも上がってしまうのです。

 本来の治療法とは違う治療法(代替療法)によって、より重篤な合併症を起こす可能性があれば、医師がその治療法を選択することはありません。これまでのお話は、私の体験をもとにした花粉症に関する一考察だと考えてください。

 花粉症は心臓にも悪影響を与えます。次回、詳しくお話しします。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。