あの話題の治療法 どうなった?

昔とは違う注射の作法 “もむ”のはNGな薬もある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 医学の発達で、患者にとってもっとも身近な看護師さんが行う看護法も大きく変わりつつある。そこで今回は趣旨を変え、患者に身近な注射の作法について関西圏の民間病院の看護部長に聞いた。

●注射後にもんではいけない薬

 かつては注射後に「注射した部位をよくもんでください」と言われたが、十数年前あたりから、言われなくなった。なぜか。

「注射の部位をもむことによって、注射液の吸収率がかえって悪くなるというデータがあり、あとは自然に任せたほうがいいと判断されたからです」

 例えばインスリンは、もむと吸収速度が速くなり、期待した時間に効果が得られなくなる可能性があるという。そうなると、低血糖を起こすリスクが高くなる。

 ほかに、注射したところをもむことで皮内または皮下に注射薬が染み出して、皮膚の組織が壊死や潰瘍、痛みなどが出る薬があるという。

「実際、筋肉注射などではモミモミすると合併症などを起こすリスクが高くなるというデータもあります。注射後もんではいけないかどうかは注射液の添付文書に書かれていますが、患者さんにはわかりません。注射前後に“もんでいい注射ですか、いけない注射ですか?”と看護師さんに聞くことです」

●注射は消毒用アルコール綿が乾いてから受ける

 厚生労働省の「予防接種要綱」などには、注射の前に接種部位を消毒することと明記されている。

「注射を刺す部位をアルコールで消毒するのですが、これはアルコール(主にエチルアルコール=エタノール)によって部位のばい菌を揮発させ、一時的にその部位を無菌状態にするためです。エタノールは揮発性が高く、他の消毒薬に比べて速乾性が高いことから注射によく使われています」

 ただ、部位が完全に乾燥するまでには時間がかかる。そのため昔は早く乾燥させるために、口でフーフーと風を送ったり、ウチワであおぐようなこともしたという。

 しかし近年は、どの病院でもアルコール消毒したら、すぐ注射を打つことが多い。

「病院も忙しいし、注射で問題になるような細菌はアルコール綿で注射部位をぬぐってすぐでも、ある程度、ばい菌が揮発しますから問題なしというわけです」

 ちなみに、エタノールは最初の数秒で多くの雑菌は殺菌され、99・9%以上の除菌に要する時間は15秒以下とされる。

 なお、献血車の血液採取では、アルコールが完全に揮発してから注射を打つという。

●注射後の入浴

 以前は、「注射をしたその日は、ばい菌が入るから風呂には入らないこと」といわれた。しかし、これもなぜ悪いかという医学的根拠がないという。

「一般的な皮下注射、筋肉内注射、点滴、静脈内注射などは入浴しても問題ありません。ついでに、注射の後、ばんそうこうなど貼られます。でもこれは、血が出たりしたとき、洋服などに付く防御策です。乾いたらすぐ取ってもかまいません」