ヒトのDNAを持つブタの心臓を人間に移植する――。まるで、サイエンスフィクションのような試みが実現に一歩近づいたというニュースが、米国人を驚かせると同時に、大論争が巻き起こっています。
カリフォルニア州のソーク研究所は1月下旬、「ヒトとブタの両方のDNAを持つ胚の作製に成功した」と科学専門誌「セル」に発表しました。
ヒトの幹細胞を注入したブタの胚を増殖させて作られたキメラ胚で、今後はこれを育成して「キメラ豚」を誕生させ、その体内で成長した心臓などの臓器を人間に移植する。そうすれば、昨今の移植臓器不足を緩和でき、再生医療の大きな一歩になるとしています。
しかし、この発表に対しては、称賛よりむしろ不安や嫌悪感を訴える声が大きいようです。「人間とも豚ともつかない奇妙な生き物ができてしまったら?」「豚とはいえ人間の心を持っていたら?」など、妄想は限りなく広がっていきます。
それに対し、「心配はあまりしなくてもよい」とニューヨーク大学医学部の医学倫理学者アーサー・キャプラン教授は雑誌「VICE」にコメントしています。
「近年増える同様の研究は、すべて病気の治療や臓器移植といった人類の健康に役立てるのが目的で、ハイブリッドの怪物を作ることではない。そもそもこれだけお金のかかる研究は、医療目的以外には成立し得ない」と言います。
それでも、自分の体の中に他の動物のDNAが混ざった臓器が入るのは不自然では……? しかしキャプラン教授は、次のように反論します。
「人間は毎日さまざまな動物の肉を食べて生きている。その動物の細胞が体内で吸収されて自分の一部になっているのを人間は忘れている」
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