独白 愉快な“病人”たち

腹痛で命の危機 堀ちえみさん救った“念のため”の胃カメラ

1カ月の絶飲食は涙が出るほどつらかった
1カ月の絶飲食は涙が出るほどつらかった(C)日刊ゲンダイ

 今はすっかり元気にしていますけど、当時は本当に命の危機でした。家族は、医師から「この3日間がヤマです」と言われたそうですから……。

 病気は突然でした。2001年、4番目の子どもが生まれて10カ月ぐらいたったころです。夏休みに家族でのグアム旅行の帰り、関西空港に降り立った瞬間、お腹の中で「ポン」という小さな破裂感があったんです。気圧で詰まった耳が急に開放されたときのような小さなものでした。

 それから自宅に向かう電車の中で腹痛が始まり、家に着いてさらに痛みが激しくなりました。そして、夜中になって「これは死ぬな」と思うくらいの激痛に見舞われたのです。近くの病院に駆け込んだのは深夜2時ぐらいでした。

 診察時間外でしたが、守衛さんが私の尋常ではない様子にむげに帰せなかったのでしょう。看護師さんを呼んでくれて、とりあえず院内に入りました。海外からの帰国後すぐということで、さまざまな検査をされ、朝一番の医師が到着したのは7時ぐらい。白血球の上昇から炎症があることは分かったものの、どこで何が起こっているのか、初めは分からなかったようです。

■ある医師の一言が命を救ってくれた

 どんどん状態が悪化する中、午後一番で開腹手術をする話が進み、家族は同意書にサインもしていました。でも、朝一番で到着したその医師が「念のために胃カメラをのみましょう」と言ってくれて、その検査結果が私の命を救ってくれたのです。まだ若そうな医師でしたが、判断は間違っていませんでした。

 病名は「特発性重症急性膵炎」でした。急性膵炎は飲酒と胆石が2大原因ですが、そのどちらでもなく原因不明なのが特発性。私の場合、膵臓がパンクして壊死してしまい、膵液によって周囲の臓器にもダメージを与える致死率の高い重症例でした。特に肺がひどく、呼吸がしづらくなって血圧が次第に下がってしまいました。「3日間がヤマ」と言われたのはこのときです。あとでうかがったお話では、もしあのまま開腹手術をしていたら助からなかったかもしれないとのことでした。

 瀬戸際をなんとか乗り越え、あとは回復に向かうばかりでしたが、そのために必要だったのは「1カ月の絶飲食」でした。膵臓やその他の内臓に負担をかけないために行うもので、鎖骨の辺りから管を入れて、血液や薬や栄養を入れるのですが、口からは食事も飲み物も一切禁止。それがもう、涙が出るほどつらかったです。

 退院の日、その若くて優秀な主治医に感謝を伝えると、「僕が治したんじゃないです。お母ちゃんは強い。子どもたちのために生きようとするその思いが、あなたを生かしたんですよ」と言われて、とても感動しました。つくづく「生きる気持ちを持ち続けること」が大切なんだと思いました。

 退院後、2カ月の通院を経て、医師からは「完治」という言葉をいただきました。でも、再発の可能性もあるとも言われたんです。

 それまで、ずっと子どもと仕事が最優先で、自分のことは全部後回し。何事にもギリギリまで我慢してしまう性分でしたが、病気をしてからは考え方が変わりました。お母さんが元気でいることが子どもたちにとって一番いい。だからこそ、母はちゃんと定期健診をして、自分の体を把握しておくべきなんだと。

■病気を経験して一層プラス思考に

 それからは、おかげさまでずっと再発もなく、健康に過ごしていたのですが、実は2年前、思わぬ病気になりました。右腰の痛みがひどくなり、動けないほどになってしまったのです。病院に行ったら「特発性大腿骨頭壊死症」と診断されました。いくつか病院を回っても、結局、手術しか痛みを取る方法はないとのことで、今、右脚には人工股関節が入っています。

 手術後は、なんともいえない違和感があり、「無理な動きをするとまれに外れることもある」と言われ、ずいぶんへこみました。リハビリも大変で、一時は「もうステージには立てない」と諦めました。痛みをかばいながら歩いていた時期が長かったために姿勢も変わってしまっていたし、痛みさえ取れればそれで十分だと思っていたんです。

 でも、2016年になってから、主人に「35周年ライブをやった方がいいよ」と背中を押され、今年のライブ開催を決意しました。リハビリに目標ができ、最近はゴルフもできるくらい、すっかり「自分のもの」になりました。もともとポジティブな性格が、膵炎で死を目の当たりにしてから一層プラス思考になりました。小さいことにくよくよ悩んで生きるのは本当にもったいないことです。

 もうすぐライブがあります。心配してくださったファンの方のためにも、歩行困難で苦しんでいる方のためにも、ステージで小走りする私をお見せしたいと思っています(笑い)。

▽ほり・ちえみ 1967年、大阪府生まれ。第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンで優勝し、82年に15歳で歌手デビュー。翌年、ドラマ「スチュワーデス物語」(TBS系)で主役を演じ、人気に火がついた。現在は7児の母として、教育や食育に関する講演も多い。3月20日に「品川ステラボール」でデビュー35周年ライブを行う。

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