一生に一度 悪性リンパ腫の新治療法“ジョーカー”って何?

“ジョーカー”をいつ切るかが問題
“ジョーカー”をいつ切るかが問題(C)日刊ゲンダイ

 俳優の松方弘樹さんや高倉健さんらの命を奪ったことでも知られる悪性リンパ腫。血液がんのひとつで、白血球の中のリンパ球ががん化したものだ。進行すると全身のリンパ系組織が腫れるため、気道や血管などが圧迫され、窒息やまひなどが起こる。年間の新規患者数1万6000人以上といわれるこのがんに、“ジョーカー”と呼ばれる治療法がある。「RI標識抗体療法」だ。どんな治療法なのか? JCHO東京新宿メディカルセンター(新宿区・飯田橋)血液内科の大坂学部長に聞いた。

■全身がんが消失した70代男性も

「リンパ球にはB細胞、T細胞、NK細胞などの種類がありますが、がん化したB細胞リンパ球の表面にはCD20と呼ばれる抗原が存在します。これにくっつく抗CD20抗体(リツキシマブと呼ばれる分子標的薬と同じ)にβ線を放つ放射性薬剤を結合させた薬剤(ゼヴァリン)を静脈に点滴投与。体の内側からがん細胞を破壊する治療法です」

 その効果は抜群で、首や脇の下、足の付け根などリンパ節の多いところに2センチ大の腫瘍が現れ苦しんでいた70代の男性は、点滴から2カ月後のPET検査で腫瘍の消失が確認されたという。

「あれから1年以上経過していますが、再発していません。この1年半に12人の患者さんを対象にこの治療法を行いましたが、最も印象的な患者さんです」(大坂部長)

 とはいえ、この治療法は悪性リンパ腫なら誰でも治療対象になるわけではない。

 悪性リンパ腫は「非ホジキンリンパ腫」と「ホジキンリンパ腫」の2つに大きく分けられる。さらにそれぞれ細かく分類され、60種類以上のタイプが存在する。とりわけ多いのが非ホジキンリンパ腫で、悪性リンパ腫の9割以上を占める。このうち年単位のゆっくりした速度で進行するのが「濾胞性リンパ腫」で、“ジョーカー”の対象となる。

「治療は簡単で、午前中にリツキシマブを、午後にゼヴァリンを上腕部から点滴を行うだけ。治療投与は1回だけです」

 体の中に放射性薬剤を投入するだけに、大きな副作用をイメージしがちだが、そうではないという。

「ゼヴァリンが放つβ線は5ミリほどしか飛ばないため、大きな副作用はありません。投与後24時間以内のアレルギー症状のほか、悪寒、頭痛、発疹など、他の抗がん剤に比べても軽い方です」

■ジョーカーは“切り札”ではない

 それにしてもなぜこの治療法が、“ジョーカー”と呼ばれるのか。

「この治療法は一生に一度しか使えないからです。一度使うと体内に抗体が出来て、薬剤を再投与すると異物として免疫組織から攻撃され、アナフィラキシーショックを起こす可能性があるのです。そのため、このジョーカーをいつ切るか、が問題になります。最後まで切り札として取っておいたばかりに、効果的な投与タイミングを失うケースもあります」

 実は、このことがこの治療法が普及しない一因になっているという。

「ゼヴァリンは2008年1月に承認されたにもかかわらず、必ずしも患者さんに知られていません。理由は併用する薬剤費を含めて総額500万円と高額なこと(ただし公的保険が利き、高額療養費制度も使えるため、実質的な負担は多くても数万円程度)、治療対象となる濾胞性リンパ腫の進行が遅いため、治療を焦る必要がないこともあります。しかし、日本では再発後、他の治療法を施した後でしか使えないために、使うタイミングを逸し、十分な効果を得られていないことも、ゼヴァリンの評価が上がらない理由のひとつなのです」

 大坂部長は再発後、なるべく早い時期に投与することで成果を挙げているという。

「ジョーカーは強い手札ですが、切り札ではありません。早めに使うことです」

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