看護師直伝 がん治療と笑顔で付き合う

「家族看護」を忘れがち

 患者さんへのがんの告知は今では当たり前のようになっていますが、それでも場合によっては、告知の是非、治療選択、療養場所の決定などを、まず家族に委ねるケースはままあります。

 患者さんはまだ知らないので、家族は限られた人にしか相談できません。誰にも話せず、孤立してしまうことも少なくない。そんな家族の心身への負担は大きく、精神医学的有病率は10~50%という報告もあるのです。

 家族の支えは、私たち医療従事者では代替できない存在です。その支えが倒れてしまわないように、医療従事者はどう対応するか。それはすなわち、患者さんを支えることにつながります。がんの発症によるダメージは、患者さんだけに向かうのではなく、その家族にも向かいます。みんなでバランスを取って均衡が保たれているので、1カ所が大きく揺らぐと、ほかにも揺らぎが伝播し影響し合うのです。

 同時に、家族の揺らぎは患者さんに伝わります。てんびんのような形を組み合わせた飾り「モビール」を想像すると分かりやすいかもしれません。

 患者さん、家族と区別するのではなく、家族というまとまりとしてケアを提供する考えがあり、これを「家族看護」と呼んでいます。この連載で、「自分だけが悩みを抱えないでほしい」と再三言っているのは、家族看護の重要さを毎日噛みしめているからです。

 昨今は家族の在り方がこれまでとは異なっている現状があります。血のつながった家族だけでなく、同じアパートの住人や友人、施設の責任者らがキーパーソンであることも少なくありません。

 同性パートナーシップの法的保障についても、各地域で検討が始まっています。血縁関係にとらわれず、患者さんにとっての「家族」を、誰もが積極的に考えていかなくてはいけない時代だと感じます。