Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

中西俊夫さん襲った食道がん 飲酒と喫煙でリスク100倍

左が中西俊夫さん(本人のフェイスブックから)
左が中西俊夫さん(本人のフェイスブックから)

 テクノポップバンド・PLASTICSの中西俊夫さんが、食道がんのため亡くなりました。享年61。昨年9月にがんが発覚してから5カ月余りの訃報に、ショックを感じた人も少なくないでしょう。

 食道は長さ25センチほどの臓器で、臓器を包む漿膜がないため、食道にできたがんは大動脈やリンパ節に広がり、肝臓や肺など周辺臓器に転移しやすい。ひどくなると、のどがつかえたり、しみたり、胸の違和感を覚えたりしますが、早期には自覚症状がほとんどないことから、発見が遅れがちで、見つかったときには周辺に転移していることが多いのです。

 早期に発見されるケースがないわけではありません。たとえば、サザンオールスターズの桑田佳祐さんです。2010年7月、54歳のときにステージ1の食道がんと判明し、手術でがんを克服しています。

 当時のラジオ番組で、「がんは、食道の真ん中より少し下の部分で胃に近い場所。先のことも考えて手術を受け、治療を行っていきたい」と語っていたように、治療の中心は手術です。ごく早期なら、内視鏡で食道の内側からがんの部分だけ切除することもでき、内視鏡手術なら1時間ほどで終わります。

 しかし、桑田さんが受けたのは、食道の一部を切除して胃につなげる大手術。6時間に及んだそうです。この手術は8時間になることもあり、社会復帰には早くても3カ月かかります。

 胃は、食べたものを一時的にためて効率よく栄養を吸収できるように少しずつ小腸に送り出すのが大きな役目。この手術で、その役割が損なわれるため、手術後に体重が減りやすい。早期の食道がんから復帰した指揮者の小澤征爾さんは15キロも痩せて「着られる服がなくなった」とこぼしていました。

 そこで、注目なのが、抗がん剤と放射線を組み合わせる化学放射線療法です。副作用として治療中の食道炎や食道狭窄によって嚥下が難しくなることがありますが、食道を温存できるのは大きなメリット。生活の質は、手術より格段によくなります。それでいて治療成績は手術と同等です。

 ポイントは、抗がん剤と放射線を同時並行で行うことです。がん細胞に抗がん剤が取り込まれると、放射線の感受性がアップ。放射線の治療効果が高まるのです。

 では、どういう人が食道がんになりやすいかというと、酒とたばこがリスク因子。特に飲酒で顔が赤くなる人が無理して飲むのが危険で、そういう人が日本酒換算で毎日3合飲んで、たばこも吸うと、どちらもやらない人に比べて食道がんの発症リスクは100倍! 食道がんを防ぐには、酒はほどほど、たばこは禁煙するのが無難です。

 桑田さんや小澤さんのようにこのがんを克服するには、定期的に胃カメラ検査を受けて早期発見を心掛けるのも大切でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。