有名病院 この診療科のイチ押し治療

【血友病】荻窪病院・血液科(東京都杉並区)

東京医科大学の鈴木隆史医師(左)と荻窪病院の診察風景
東京医科大学の鈴木隆史医師(左)と荻窪病院の診察風景(C)日刊ゲンダイ
使用可能な薬がすべてそろい最新治験も実施

 血友病は、血液中の血を固めるタンパク質の一部が欠乏、またはうまく働かないために止血しにくくなる代表的な病気。主に遺伝性で、13種類ある血液凝固因子のうち、8番(第Ⅷ因子)に異常があると「血友病A」、9番(第Ⅸ因子)に異常があると「血友病B」という。

 国内の患者数は、血友病Aが約5000人、血友病Bが約1000人。同科の患者数はその10%を占め、国内最大規模の血友病センターとして知られる。これまで同科を率いてきた国内の血友病治療の第一人者、花房秀次部長(理事長)が昨年11月に逝去。今年2月に古くから親交のあった東京医科大学の鈴木隆史医師(顔写真)が部長に就任した。同科の特徴をこう言う。

「国内で血友病の患者さんを診ている医療機関は1000施設程度で、ほとんどは患者数が5人以下です。地方で患者数が少ないと、薬のラインアップを確保するのも大変です。当科は花房先生の功績で多くの患者さんが通院しており、国内で認可されている薬(血友病A=8種類、血友病B=6種類)は、すべて使うことができます」

■患者のトータルケアを実践

 治療は、昔は出血したときに不足する凝固因子を病院で注射していたが、1983年から自己注射が認められ、いまでは出血を事前に予防するために、患者や親が自宅で定期的に静脈注射する「定期補充療法」が一般的だ。

 1回の注射は2.5~5㏄。従来の薬剤で最も多く使われている投与回数は、血友病Aが週3回、血友病Bが週2回。ただし、薬の半減期(持続時間)は個人差が大きく、年齢や体重などの影響も受ける。薬の選択や頻度は、個々の患者ごとに判断する必要があるという。

「いまは薬が進歩して、長時間作用型製剤も出ています。血友病Aでは従来より1・5倍程度延長しており、注射は週2回で、血友病Bでは4~5倍延び、週1回、あるいは2週に1回の注射で済む場合もあります」

 また、患者数が多い同科では最新治療の臨床試験が常に行われている。条件がクリアできれば治験の参加も可能だ。近年注目されているのは、すでに欧米で治験が進められている血友病Bの遺伝子治療だ。これは1回の点滴注射で5~10年、出血しないで過ごせる可能性があるといわれている。遠くない将来、日本でも治験が導入される可能性があるという。

 血友病の多くは幼少期から症状が出始め、一生の付き合いが必要な病気だ。そのため、整形外科、リハビリ、栄養士、ソーシャルワーカー、臨床心理士らと連携したトータル的な包括医療に取り組んでいるのも同科の特色だ。血友病で特に問題になるのは、関節内の深部出血。繰り返すと、関節組織が破壊される関節症を引き起こす。

「定期補充療法が普及したいまは、関節内の出血を経験していない子供の患者さんは多いのですが、昔ながらの治療をしてきた40~50代では、人工関節にしなくてはいけない患者さんもいます。その予防やケアのためにも、包括医療はとても重要になります」

 血友病は全体の患者数が多くないので、すべての患者が専門医の医療を受けているわけではなく、施設や地域間の格差が大きい。困ったこと、知りたいことがあれば、何でも気軽に相談してもらいたいという。

■データ■
 前身が中島飛行機付属病院。
◆スタッフ数=常勤医師4人、包括医療スタッフ4人
◆血液科の年間初診患者数(2015年度)=135人
◆血友病通院患者数(同)=血友病A‥563人、血友病B‥139人