がんと向き合い生きていく

一瞬、答えに窮してしまったすい臓がん患者さんからの質問

都立駒込病院の佐々木恒雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 まさか、膵臓がんで抗がん剤治療をされている方が講演を聞きに来ているとは考えていませんでした。当時、患者さんへのがん告知は行われるようになっていましたが、その多くは現在のようにすべてをストレートに話している状況ではありませんでした。その老婦人が担当医からどんな説明を受けているのかも分からず、私は一瞬、答えに窮しました。

 ひとまず2人で会場を後にして、一緒に歩きながら、講演はあくまで一般的な話であることなどを説明しました。そして私の連絡先を伝え、近くの駅で別れたのを覚えています。

 その後、老婦人からの連絡はありませんでした。いま飲んでいる抗がん剤が「効かない」と聞かされたら、どんな思いになられたか? 老婦人にはとても気の毒な思いをさせてしまいました。今も、当時の痛恨の思い出として残っています。

 現在でも、膵臓がんは難治性がんの代表です。先日も、ミュージシャンのかまやつひろしさん(78歳)が膵臓がんで亡くなられたとの報道を目にしました。最近は、新薬が開発されて治療が進んで効果が見られますし、治療法もいろいろと工夫されています。先に化学療法、放射線治療を行って、がんを小さくしたうえで手術する方法をとる病院もあります。そして、Dさんのように治癒と考えられるまで回復される患者さんも増えてきました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。