こめかみがズキン、ズキンと脈打つように痛み、体を動かすと症状が悪化する「片頭痛」。ストレス、寝不足、寝過ぎ、飲酒、特定の食べ物などが誘因となって分泌された神経伝達物質の「セロトニン」が、頭の血管を拡張させたり、炎症物質を放出させたりして頭痛を起こすと考えられている。
心臓とも関係していて、「片頭痛もちの人の約半数が心臓の中に穴が開いている」との報告がある。東邦大学医療センター大橋病院・循環器内科の原英彦准教授に聞いた。
「人は胎児のときには心臓の右心房と左心房の間の壁(心房中隔)に穴が開いていて、その穴は生まれて2歳までに大半の人は自然と閉じます。しかし、約2割の人は穴が完全に閉じないまま残ります。『心房中隔欠損症』や『卵円孔開存』などがそれです。穴が残っても生涯問題にならないことも多いのですが、一部の人は脳梗塞の発症リスクを高めたり、片頭痛の原因としても疑われています」
心房中隔に穴が残ると、いきんだ後に右心房の静脈血が左心房(動脈血)に流入する「右左シャント」という状態が起こる。この右左シャントが多く起こると、静脈血中の微小血栓が動脈血に入り込み、脳の血管を詰まらせるリスクが高くなる。片頭痛と右左シャントの関係ははっきり証明されていないが、静脈血中の頭痛を起こす原因物質が肺を通らず、脳動脈に入り込むからと考えられている。
■片頭痛のある人の脳梗塞リスクは2倍
実際、片頭痛がある人は、ない人に比べて脳梗塞の発症率が約2倍高いことが報告されている。特に、頭痛発作の前に視界にチカチカした光が現れたり、視野の一部が欠損したりする「前兆のある片頭痛」では、心房中隔に穴が残っているケースが多いという。
「片頭痛のある人は、一度は頭部MRIで検査をした方がいいと思います。それは20代、30代の若い人でも症状のない無症候性脳梗塞の白質病変が見つかることがあるからです。それで心エコーなどの検査で心房中隔の穴が見つかった場合、本格的な脳梗塞の発症予防としてカテーテル治療で穴を閉じるという選択肢もあります」
カテーテル治療は太ももの付け根の静脈から細い管を挿入して、心臓まで到達したら器具を開いて穴を閉じる治療法。ただし、国内の成人の片頭痛患者は840万人といわれ、心房中隔に穴が残る人は5人に1人。すべての患者にカテーテル治療が必要というわけではない。対象になるのは「右左シャントが多い患者」。経食道エコーを使いバルサルバ負荷試験という検査で調べるという。
「この検査は、点滴で小さい泡を注射して右心房から左心房に抜ける泡を観察します。しかし、患者さんに細長いエコー機器を飲んでもらったり、いきんでもらったりするのできれいに泡が映らない場合があり、診断が難しく、上手にできる施設も少ない。診断技術が追いついていないのが現状です」
同院で、脳梗塞を発症したり、無症候性脳梗塞でカテーテル治療を行った症例は2014年からこれまで約20例(20~70代の患者)。治療後は半年で血栓予防の抗凝固薬の服用がいらなくなり、片頭痛もほとんどの人が軽減するという。
片頭痛に苦しんでいるなら、循環器内科や神経内科で心臓を調べてもらってはどうか。