独白 愉快な“病人”たち

尻もちで異変…河合美智子さん語る「脳出血」の一部始終

今もリハビリを続ける河合美智子さん
今もリハビリを続ける河合美智子さん(C)日刊ゲンダイ

 去年の8月13日、「脳出血」で救急搬送されました。でも、自分自身は「何で救急車呼ぶの?」と思っていたくらい普通だったんです……。

 その日は、夜にクルマで知り合いの監督が手がけていた自主映画の稽古場にお邪魔したんです。見学だけのつもりだったのに、その場で出演する話になって稽古に参加しました。稽古中、イスに腰掛けていた状態から、途中で床へ下りて横座りする姿勢になりました。すると、だんだん右脚が重いような固まっているような感覚になって……。でも、そのときは大して気に留めていませんでした。

 異変がはっきりしたのは、休憩になってイスに戻ろうとしたときです。立ち上がろうとして尻もちをついてしまったんです。周りの人たちが「足がしびれたんですか?」とイスに座らせてくれる中、「ごめんね、カッコ悪いね」と照れ笑いしながら、右脚に感覚がないことを自覚しました。それでも、病気だとは思いもしなかったので、ずっとしゃべって笑っていたんです。

 そのときプロデューサーが、いきなり「救急車を呼んで!」と大声で叫んだのです。右足首が普通じゃない曲がり方をしていたようでした。そのプロデューサーは身内に脳出血を患った方がいらしたそうで、迅速な判断をしてくださったのです。稽古場に着いてから1時間後ぐらいの出来事でした。

 救急車が到着するまでの間に右手が固まり始め、5分ほどで到着した救急隊員に自分の名前や状態を説明している間にろれつが回らなくなり、言葉が通じなくなっていきました。たとえるなら、ギリシャ神話の怪物メドゥーサと目が合って、足から徐々に石化していくような感じ(笑い)。

 救急車の中では「明日の仕事をキャンセルしなくちゃ」とか、「まだやることあるのに」「クルマ置いてきちゃった」なんていろんなことを考えて、大ごとだとはまったく思っていませんでした。

 集中治療室に運ばれると、血圧が200(mmHg)もあって、血圧を下げる薬を点滴されました。高血圧による脳出血でした。MRIやCT検査でわかったのは、「これ以上、出血量が増えれば頭蓋骨に穴を開ける手術をして血腫を取り除かなければならない」ということ。手術の同意書にもサインしていたのですが、ギリギリで出血が止まってくれたので、手術はせずに済みました。

 後から聞いた話によると、止めてあったクルマを取りにいってもらうと、何と鍵が開いていて、車内にお財布が無造作に置いてあったそうです。そんなことをした経験は過去にないので、今思えばそのときから影響が出ていたのかもしれません。

 発症当日はろれつが回らなくて「あ」と言いたくても「お」になってしまうような状態でしたが、幸いにも翌日には言いたいことが言えるようになり、ホッとしました。

 ICUにいた3日間は、どこも動かないし、羞恥心もなくなって、あおむけのままボーッと風に吹かれている感じ。まるで「枯れ葉の中の微生物」になった気分でした。

■ステージを歩くためにリハビリにも熱が入った

 その後、個室から一般病棟へ移り、さらにリハビリ専門病院に転院して約3カ月半を過ごし、今年の1月10日に退院しました。通算5カ月の入院生活は大変でしたけど、なかなか経験できないことができたという意味で、とても面白かったです。日頃知り合うことのない99歳のおばあさんのお話を聞いたり、自分の体を何とか動かそうといろんなところに意識を集中してみたり、退屈することがまったくありませんでした。特にリハビリ病院では、時間割通りの生活で結構忙しかったです。

 しかも、入院生活の中盤からは仕事もしていました。初めはNHKのラジオ出演。そして、病気を発症した例の自主映画の撮影もありました。さらに、12月にはNHKの生放送の歌番組「わが心の大阪メロディー」で、大阪まで行ったんです。ステージを歩くためにリハビリにも熱が入りました。

 ただ、一番大きなモチベーションになったのは、「大好きなレストランで食事をしたい」という気持ちでした。「のんとろっぽ」という世田谷のお店なんですが、2階にあるので「何としても、あの階段を上るんだ!」と頑張ったんです。実際、10月には外出許可をもらって食べにいきました。まあ、赤ワインを飲みにいったとも言えますが(笑い)。もちろん許可はいただいてますよ。「飲み過ぎない程度にリラックスしてきてくださいね」と。

 泣いていても笑っていても同じように時間が過ぎるのなら、笑っている方がいいと思うんです。リハビリも仕方なくやるんじゃなく、前向きにやった方が絶対に効果が出やすいはず。まだリハビリは必要ですが、この経験は絶対にお芝居に生かせると思っているので、これからが楽しみです。

▽かわい・みちこ 1968年、神奈川県生まれ。83年に映画「ションベン・ライダー」でデビュー。その後も数々の映画やドラマに出演した。96年、NHK連続テレビ小説「ふたりっ子」で演じたオーロラ輝子の歌「夫婦みち」がヒットし、翌年の「NHK紅白歌合戦」にも出場。現在、出演映画「ママ、ごはんまだ?」が上映中。

関連記事