「認知症」を知るための20週間

認知症とうつ病 見極めのカギは冷蔵庫チェックにあり

オレの車どこだっけ…?
オレの車どこだっけ…?(C)日刊ゲンダイ

 男女とも平均寿命80歳を超えるが、手がかからず健康でいられるのは70代まで。10年くらいは介護が必要だ。そこに認知症が絡んだら厄介だろう。しかし、親の物忘れの症状は、ひょっとするとうつ病のせいかもしれない。それなら、治るチャンスがある――。

 伊藤さん(49)は、2年ほど前から父(75)の言動がおかしいことに気づいた。通帳やカギをしまった場所が分からなくなり、町内会の寄り合いをすっぽかしたり。財布が見つからなかった時は、「盗んだのか?」とののしられた。

「いよいよ認知症か」と重い気持ちで大学病院を受診したところ、思いもよらない診察結果に驚いた。

「認知機能を調べる知能評価テストの結果が良くて、CT検査では認知症に特徴的な脳の萎縮も見られませんでした。その結果から、『お父さんは高齢者のうつ病です。物忘れはうつ病による症状ですから、治療すれば良くなります』と言われたのです」

 抗うつ薬のSSRIを2週間飲み続けると、物忘れの症状が少しずつ改善。1カ月後には、すっかり元の父親の姿に戻ったという。

 米山医院院長の米山公啓氏が言う。

「高齢者はうつ病でも、認知症のように物忘れをすることが往々にしてあるのです。例えば配偶者が亡くなったり、長く勤めていた会社を引退したりするショックが引き金になります。60代以降は多かれ少なかれ、健康な方でも物忘れをする。それが、いろいろなショックからうつ病になって、ヤル気が低下すると、注意力が散漫になって、物忘れが悪化するのです」

■その人の背景や病歴をつぶさにチェック

 伊藤さんも、物忘れの症状を見せるようになる直前、妻を亡くしていた。趣味の俳句会で作品を批判されたのがキッカケで、大好きだった俳句を詠む意欲を失って引きこもり、物忘れがひどくなった人もいるという。

 家族にとってはささいなことであっても、本人にとってショックなら、うつ病による物忘れを招くのだ。

 では、認知症とうつ病を見極める手だてはないのか。

「例えば、冷蔵庫を定期的にチェックすると、見極めの手掛かりが得られます。認知症だと、食材を買ったことを忘れたりして中身が増える傾向がありますが、うつ病だと減る。引きこもり生活で買い物をしなくなっても、最低限の食事はしますから」

 厄介なのは、物忘れの症状があっても、頭痛や吐き気、目まいなどの身体症状がつらいと、そちらを主訴として言うことだ。

 しかし、同じ病気で頭痛と吐き気を発症することはまれで、そこから高齢者うつが見つかるケースもあるという。

「高齢者うつを的確に診断するには、その人の背景や病歴をつぶさにチェックする、かかりつけ医に診てもらうことが大切」という。