Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【ムッシュかまやつさんのケース】膵臓がんは脱メタボ対策で予防

ムッシュかまやつさんは享年78
ムッシュかまやつさんは享年78(C)日刊ゲンダイ

 ポップス界のレジェンド、かまやつひろしさんの命を奪ったのは、膵臓がんでした。享年78。数多くの名曲の中でもよく聴いたのが「シンシア」です(南沙織さんのファンでした)。残念です。

 報道によると、2年前に膵臓がんが発覚。手術を受けたそうですが、翌年の5月、肝臓への転移が見つかり、その時は手術ではなく、抗がん剤で治療を続けていたそうです。

 9月に肝臓がんを公表して「絶対復活する」と宣言したことから、肝臓がんで闘病されていたと思っていましたが、大本のがんは膵臓でした。

 すべての病期を含めた5年生存率は9%。比較的治りやすい胃や大腸だと80%近いですから、その差は歴然。それでもステージⅠは40%。膵臓がんと向き合うには、早期発見に勝るものはありません。

 国立がん研究センターは、血液中に含まれるタンパク質「apoA2」が、膵臓がんを早期発見するためのマーカーになることを発見。この夏にも、その有効性を確かめるための大規模臨床試験がスタートする見通しです。

 がん細胞が放出する遺伝子を解析して、早期にがんの有無をチェックする研究も着々と進んでいます。それが実現すれば血液や尿から、厄介な膵臓がんの有無を調べることも可能です。

 画期的な技術の登場に期待する一方、膵臓がんにならないような努力も必要でしょう。「我が良き友よ」のB面には、「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」が収録されていますから、かまやつさんは喫煙されていたのでしょう。喫煙は膵臓がんの発症リスクを2~3倍増やすとされています。

■1年に1回は腹部エコー検査を

 その次が、糖尿病。米国では、患者は60~80%が糖尿病とされます。病歴が10年を超えると、糖尿病でない人に比べて50%も発症リスクが上昇。糖尿病は、心筋梗塞や脳卒中をはじめとする血管病の危険因子であることはご存じでしょうが、膵臓がんの予防という点でも糖尿病治療は大切なのです。

 そのためには、適度な運動を心掛け、肉類や脂っこい食事を控え、食事は野菜中心に。生活改善も、膵臓がん予防には欠かせません。

 3つ目が胆石。胆石はメタボな食生活や、よく飲酒される人に典型的ですが、その原因がハッキリしないのに胆石ができやすいケースでは、膵臓がんが疑われることもあるのです。

 そういうリスクを抱えている人は、1年に1回は腹部エコー検査を受けるといいでしょう。膵臓は胃の後ろにあり、すべてのがんをチェックできるとは限りませんが、エコー検査は被曝リスクもありませんから、受けるのが無難です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。