がんと向き合い生きていく

科学的に「がんにならない方法」は本当にあるのか?

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長
都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 同級生の息子さんが胃がんで亡くなりました。通夜の帰り道、酔った同級のA君がこう言い出しました。

「おまえ、がんが専門だよな。がんにならない方法を教えてよ。酒はどれだけ飲んだらがんになるんだ? たばこは何本吸ったらいけないんだよ!」

 がんにならない方法、そんなうまい話は本当にあるのか? それが分かっていたら、こんなにがんで亡くなる人はいないはずではないか。

 世間には「がん予防法」があふれていますが、信頼の置けないものも少なくありません。科学的根拠がはっきりしたがんになるリスクを減らす、がんを遠ざけるその方法を挙げてみます。

 まず、たばこをやめることです。「喫煙」は明らかにがんのリスクを高めることが科学的に立証されています。私がこれまで治療の相談を受けた舌がん、咽頭がん、食道がんの患者さんのほとんどは喫煙者でした。また、肺がん、食道がん、口腔がん、大腸がん、乳がんその他、多くのがんとの関連も指摘されています。

 次に、「ウイルスや細菌の感染」からの発がんも科学的に示されています。主なウイルスでは、肝臓がんと関連するB型、C型肝炎ウイルス、子宮頚がんのヒトパピローマウイルス、白血病の成人T細胞白血病ウイルス。細菌では胃がんの一因になるヘリコバクター・ピロリ菌が挙がります。対策としては感染を避ける・防ぐ、あるいはワクチンの投与、治療薬の投与があります。

 これらとは別に、科学的根拠のある「がんを遠ざける生活習慣」はあるでしょうか?

「肥満」は、大腸がんや閉経後乳がんのリスクを高めることが分かっています。

 一方、痩せ過ぎもがんのリスクを高めます。太り過ぎない、痩せ過ぎないことが、がんのリスクを遠ざけるのです。

 適正な体重とは、日本肥満学会の判定基準では「BMI:18・5以上25未満」とされ、BMI(BodyMass Index=体格指数)は「体重<キログラム>÷(身長<メートル>×身長<メートル>)」で計算します。

「食事」も、がんのリスクと関わっています。

 日本人を対象とした疫学的研究から、科学的根拠に基づいたがんのリスク因子として、野菜・果物不足、多量の飲酒、低身体活動、塩分・塩蔵食品の過剰摂取などが挙げられています。

 健康日本21で国が示した野菜の1日目標量は350グラム以上としています。これにより、カリウム、ビタミンC、食物繊維の適量摂取が期待できるのです。

 多量の飲酒は、肝臓、大腸、食道がんなどのリスクを高めることが知られています。多量飲酒は健康日本21で「1日平均純アルコール約60グラム(日本酒にして3合)を超えて摂取する人」と示されています。

 なお、健康日本21(第2次)では、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している人は「1日当たりの純アルコール摂取量が男性40グラム(日本酒で2合)以上、女性20グラム(日本酒で1合)以上」としています。

 運動習慣や日常生活での種々の身体活動の増加は、大腸がんのリスクを下げることが期待できます。運動習慣のある人とは、「1回30分以上の運動を週2日以上実施し、1年以上継続している人」をいいます。

 都民の1日の歩数(15歳以上)の平均値は、男性8000歩前後、女性7000歩前後のようです。1日8000歩以上の割合は、男性51.3%、女性45.5%(20~64歳まで)でした。

 食塩の摂取量は、健康日本21では「1日8グラム」を目標としています。都民の平均食塩摂取量(1日当たり、20歳以上)は、男性11グラム台、女性10グラム台で推移しており、男性で8グラム以下の人は18.9%、女性31.5%のようです。

 結局、食事はバランス良く、野菜・果物不足にならないようにしながら、塩分の摂取は最小限にすること。適切な身体活動を続け、多量の飲酒は避けるなどが、がんのリスクを減らすことになります。

 科学的根拠に基づいた研究では正直、この程度しか分かっていないのです。さらに、「これを守ればがんにならない」とはとても言えません。それでも、少しでもリスクを減らして健康に過ごしたいものです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。