寛解率30~40% うつ病は「磁気刺激」で吹き飛ばせる

寛解率30~40%、米国では9年前に正式治療法に
寛解率30~40%、米国では9年前に正式治療法に(提供写真)

 磁場を発生する刺激装置を使い、うつ病を治療する「TMS療法(経頭蓋磁気刺激治療)」。自由診療や臨床研究で行われているが、効果はどれほどなのか。この治療法に詳しい国内の第一人者、国立精神・神経医療研究センター病院・精神先進医療科の鬼頭伸輔医長に聞いた。

 うつ病の治療法には「精神療法(認知行動療法や心理教育)」と「薬物療法」があり、一部のうつ病には「電気けいれん療法(ECT)」が行われてきた。

「国内のうつ病患者数は約100万人と推計され、社会的経済損失の大きい病気の第2位です。国内外の診療ガイドラインでは、中等症以上のうつ病には薬物療法が推奨されていますが、薬が効かない患者さんが約30%います。その人たちをどうしたらいいかと、臨床研究が進められてきたのがTMS療法です。米国では2008年にうつ病に対して認可されています」

 基本的にTMS療法の対象となるのは、「ECTが推奨される状態を除く、中等症以上の薬の効かないうつ病」。薬の副作用で薬物療法が続けられないような人の場合も対象となるという。

 TMS治療は、患者がリクライニングチェアに座った状態で行う。刺激装置に付いた専用コイルを頭に当てて磁場刺激を与える。

「標準的には、10ヘルツの磁場で左前頭前野(左側のおでこ)を刺激します。4秒間(40発)の刺激を26秒間隔で75回(約40分間)繰り返します。これを週5回、平均6週間続けます」

■気になる副作用は?

 この磁場刺激によってうつ病に関与する脳の前頭前野の血流量が増大し、神経ネットワークが修復される。また、ドーパミンやノルアドレナリン、神経栄養因子なども関与している。これらの脳内の効果は、脳の血流を画像でとらえるスペクト検査などで確認できているという。

 副作用は、20~40%の人に治療中に頭痛、刺激部位の痛み、顔や額の筋収縮、不快感などが見られるが、治療を中止するほどではない。

 注意する有害事象では、けいれん発作の誘発が0・1%未満と報告されているが、けいれんの既往や服薬している薬の種類、要因となる寝不足、飲酒などを問診で確認することで十分防げるという。

 では、気になる症状に対する効果はどうか。

「二重盲検試験(医師や患者に処置内容を知らせない)では、うつ症状がなくなる寛解率は15~20%。実際の臨床での寛解率は30~40%。うつ病評価スコアで症状が50%以上改善する奏効率は50~60%です」

 ただし、うつ病は再発しやすい。薬の効きが悪い人でも、服用が続けられるのであれば薬物療法を併用した方が良いという。TMS療法で一度高い効果があった場合、再発時に再度やっても効果は高いという。

「TMS療法はあくまで治療法の一つで、すべてのうつ病に有効とは限りません。他の治療法と組み合わせた方が効果は望めるので、TMS療法を受けるなら精神療法、薬物療法にも精通したうつ病の専門医のいる施設で受けるべきです」

 いまのところTMS療法は保険適用外。ちなみに、次回の診療報酬改定(2018年度)で単極性うつ病(普通のうつ病)に対して保険適用が期待できそうだという。

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