独白 愉快な“病人”たち

美容ジャーナリスト山崎多賀子さん 乳がん闘病記が自分の心のリハビリに

山崎多賀子さん
山崎多賀子さん(C)日刊ゲンダイ

 44歳の時、婦人科の女性検診で乳がんが見つかりました。胸にしこりもなく、体調が悪かったわけでもなく、まだ40代の自分が乳がんになるとは思ってもいなかった中での告知……。まさに青天の霹靂でしたが、主治医から「範囲は広いけど超早期です。手術をすれば治ります」と言われ、ショックが少し和らいだことを覚えています。

 夫に報告したら、「超早期だったのなら、あなたがこの病気で死なずにすんでよかったじゃない。どのみち人間の致死率は100%」と言ってくれ、本当にそうだと素直に思えました。

 手術で右乳房を全摘出しましたが、リンパと乳首を温存でき、乳房再建も成功。術後の痛みは強かったものの、無事に退院した時は感無量でした。ところが、術後の病理結果を聞きに行くと主治医から「浸潤(がん細胞が器官からしみ出している状態)箇所が複数あり、再発する可能性がある」と言われたんです。手術すれば治療は終わりと考えていたのでショックでした。ゴールだと思っていたものがスタートだったなんて……。

 主治医は丁寧にホルモン療法と抗がん剤治療の説明をしてくれました。でも、私はどちらも絶対にやりたくなかった。特に健康な細胞まで殺してしまう抗がん剤で、髪の毛まで抜けるなんて受け入れられるわけがない。

 そんな時、入院中に知り合った“がん友達”が亡くなりました。そこで改めて「私の病気は死と直面するんだ」と思い知らされました。同時に、「あの時、治療しておけばよかったと思わないようによく考えてくださいね」という主治医の言葉を思い出しました。

「ならば、今できる治療をしよう」と気持ちを入れ替え、抗がん剤治療とホルモン療法、分子標的薬(がん細胞の性質を分子レベルでとらえて効率良く攻撃する)での治療を受けることにしました。

■ウィッグやメークは自分を守る「鎧」のようなもの

 もともと、「がん患者だからとコソコソしたくない」という思いがあり、周囲にがんを公表していたのですが、さらに女性誌で闘病記の連載も始めました。治療法、必要なお金、ウィッグなど、私が知りたいことを専門家に聞きました。他にも私の日常もつづったのですが、取材をして書くことで考えが整理され、記事を発表することで誰かの役に立つのであればうれしい。何より自分の心のリハビリになりました。

 この連載は反響が大きく、私ががんの治療中でありながらも元気に日常生活を楽しんでいる様子を見て、「私も遊んでいいんだ」と号泣したという地方のがん患者さんもいらっしゃいました。がん患者は華やかなことをしてはいけないと思い込み、地味な服を着て、自宅と病院を往復するだけの日々だったという彼女は、「私も東京に遊びに行く!」と前向きになり、私の記事を病院のロビーに置くよう掛け合ってくれたといいます。

 私は、治療中でも体調がいい時は普段通りに外出すると決めていました。髪の毛だけでなく、まつげも眉毛もない“黒い顔”で外を歩けませんから、メークして、ウィッグを着けて仕事に行ったら、私ががんだと知らない知人が「最近、きれいになった?」と言ったんです。この時「よっしゃ!」と、心の中でガッツポーズしました。

 がん患者は死に対する不安がある中で、ある人は仕事を、ある人は人間関係を失うこともあります。治療費や生活費など金銭面での不安もあります。それらの原因の多くは、「がんになった」という、ただそれだけの事実です。私もがんを告知された時、鬼ごっこでタッチされて、大きな川の向こうにいきなり連れていかれた気がしました。やりがいも楽しみも奪われて、薄暗い場所で、一生、生活しなければいけない……と絶望感に見舞われたんです。でも、イキイキと生活する乳がんの先輩の話を聞いているうちに、「それは違うぞ。がん患者でも前向きに生きることができる!」と思い直しました。

 そのために必要だったのが、ウィッグでありメークです。当時の私は、それらを世間の目から自分を守る「鎧」のように感じました。何も装わずに丸腰で戦場(社会)に出ていくのは不安だけれど、鎧を着けていれば自分らしく堂々とできる。そんな気分です。

 がんを告知され、治療をし、さまざまな思いを体感してきましたが、ずっと「私はがんになったけれど、それが何か?」と言い続けて、世間の偏見をなくしたいと思ってきました。がん患者は世間から排除される存在ではなく、みんなでケアをしながら、患者もそうでない人も共に生きていくべきです。無理に自分はがんだと言う必要はないけれど、言えない社会はおかしい。ヘンに気を使われるのも、同情されるのもイヤ。がん患者は大変だけれど、かわいそうな人じゃないんです。

 がんを経験した者がそれを言い続けることで、社会が変わることを信じています。

▽やまざき・たかこ 美容ジャーナリストとして多くの女性の支持を集める。NPO法人キャンサーリボンズ理事。NPO法人CNJ認定乳がん体験コーディネーターとして、日本全国で自らの体験と「キレイな患者」を目指したがん患者向けの美容セミナーを実施している。受講者には男性患者も。著書に「『キレイに治す乳がん』宣言!」(光文社)がある。