「多死社会」時代に死を学ぶ

食事、呼吸、排泄が「老衰死」前の3つの特徴

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「自然死」(病気や事故以外の老衰死)は、どのようなプロセスをたどるのか。

 医学がこれほど発達している中で、実は「自然の摂理」である「老衰死」に関する医療データがほとんどない。死にいたるプロセスは、確かな医師に聞く以外にない。

「『平穏死』という生きかた」(幻冬舎)など死に関する多くの著書を持つ石飛幸三医師は現在、特別養護老人ホーム「芦花ホーム」(東京・世田谷区)の常勤医師。就任して今年で12年目を迎え、多くの自然死を見てきた。

 慶応大学医学部を卒業後、血管外科医としてドイツの病院、また「東京都済生会中央病院」では副院長も務めるなど、長いこと医療現場に携わり、治すことに専念してきた。しかし老衰を治そうとしても、治せないことが多くなってきた。

 老衰に対する医療の意味を考えてきて、高齢者の終の住処、特別養護老人ホーム芦花ホームの常勤医に転身し、300人に近い入所者の死をみとってきたという。

 石飛医師の死生観は、「死は自然の摂理で、親から命を受け継ぎ、その命を子どもに継がせるという繰り返し。本人の最期は、子どもがそれを学ぶ場面だ」と言う。

■1週間から10日前にあらわれる

「老衰」を迎えると、「排泄」「摂食」「呼吸」の能力が落ちてくるが、それは「最期に向かう自然現象で、これは決して悲しむ出来事ではありません。受け入れなければならないことです」。

 死を迎える1週間から10日前あたりになると、「まず、食べ物を受け付けなくなり、眠ります。私はご家族に、『そろそろですね』と、知らせますが、予測以上に延びる場合もあります。栄養や水分は取らなくても、最期の日まで排尿が続きます。まるで余計なものを片づけて、捨てて、捨てて、身を軽くして天に昇るようです。酒好きだった人には、日本酒を口に含ませることもあります」。

 亡くなる数日前に高い熱を出す人も少なくない。これは「最後に燃え尽きることなのでは」と言う。

 ベッドに伏している本人は夢の中で、最期が近づくと、吐く息が、ハア、ハアと少しずつ荒くなる。

 血圧が下がると、心臓から遠い手足から肌の色も変化して冷たくなってしまう。血圧はやがて60以下になる。青紫色に変化する(チアノーゼ)のは、血流が低下し血液中に含まれる酸素濃度の低下が原因だ。

「死が近づくにつれ、呼吸がだんだんと乱れてくるのは、生きていくために最も原始的な脳幹の呼吸中枢が、最後まで頑張るからですね」

 最後は、下顎呼吸を行う。下あごを下げ、普段とは違う筋肉を使った補助呼吸である。

 見守る家族は、こうした症状を見て、「苦しいのか?」と心配するが問題ない。

 最後に、息を大きく吐き出す人がいる。これは、呼吸筋の最後の反射反応と言われている。

「家族がみとっている前で私は、『ご臨終です』などと、形式的な言葉は使いません。『長い人生、本当にご苦労さまでした』と、語りかけています」