虚血性心疾患「心臓カテーテル」は治療後の出血に要注意

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 狭心症、心筋梗塞の総称である「虚血性心疾患」は、日本人の3大死因のひとつで冬場に発症しやすいことが知られている。この冬、その治療法である心臓カテーテル治療を受けた人も多いのではないか。成功率が高く、体に優しいこの治療法で一命を取り留めたのは幸いだが、油断してはいけない。術後、知らない間に胃腸から出血しているかもしれない。

 九州に住む吉村太郎さん(仮名、83歳)は今年1月の朝食時に胸に強い痛みを感じた。冷や汗が流れ、痛みは15分を超えても治まらない。すぐに救急車で病院へ。診断は心筋梗塞だった。

「もうダメかと思いました。心臓を素手でつかまれるような痛みでした」

 心筋梗塞にはさまざまな治療法があるが、医師は年齢と体力を考えて「冠血管インターベンション治療(PCI)」を決断した。

 PCIとは動脈硬化で狭くなった心臓の冠動脈を広げる治療法。先端に風船(バルーン)のついたカテーテル(細い管)を足の付け根などの血管から挿入し、狭くなった部分を、風船を膨らませて拡大。その血管を特殊な合金でできた網目状の筒(ステント)で補強する。

 この治療法で一命を取り留めた吉村さんだったが、治療後3日ほどして再び異変に襲われた。顔面が蒼白となり、目の前がぐるぐると回り始めたのだ。再び病院に戻り検査したところ、今度は「貧血」と告げられた。

「胃の中に大量の血がたまっているというのです。胃壁から出血していたらしい。そういえば退院後も血液が混じった黒い便が出ていました」(吉村さん)

 原因は「アスピリン」と「クロピドグレル」を使った抗血小板治療(DAPT)にあった。

「この2剤は血液をサラサラにする抗血小板薬で、PCI後に飲むと、ステントに血栓ができるのを6~7割減らせるそうです。PCIの効果を長続きさせるため一般的な治療といいますが、その分、胃や腸などの消化管からの出血リスクは高くなるそうです」(吉村さん)

 過去の研究では、PCI後に抗血小板薬を使わなかった治療を1とした場合、クロピドグレル単剤で1・1、アスピリン単剤で1・8、2剤を併用するDAPTで7・4倍も重度の消化管出血が表れたと報告している。

 このため、2008年から米心臓病学会財団、消化器病学会、心臓協会などが上部消化管からの出血を抑えるため、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用を推奨している。

■便の色に注目

「報告ではPPIの使用により、半分近く消化器からの出血リスクが低下したといわれています」

 こう言うのは血管内治療の権威で東邦大学医療センター佐倉病院・臨床生理機能学の東丸貴信教授だ。

「おそらく、吉村さんのケースでもPPIは使われていたと思います。ただ、高齢の心筋梗塞の患者さんは、脳梗塞のリスクが高まる心房細動を合併している人が多い。そういう人はワルファリンなどの抗凝固剤を使用しているので、出血リスクが格段に高まります。吉村さんもそうだったのかもしれません。私が勤務している病院でも、このような人の3割近くがそれなりの出血をしています」(東丸教授)

 問題は、吉村さんのようにPCI後の出血に気づかない人が少なくないことだ。

「高齢者の10人に1人は貧血といわれますが、自覚する人は少ない。一般的に貧血はドキドキする、微熱がある、体がだるいという症状が表れますが、高齢者の貧血はわかりにくいからです。なので、便がタールのように粘り気がある、色が黒いというのを目安にするのも手です」(東丸教授)

 カテーテル治療だけで命が助かったと安心してはいけないのだ。

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