Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

扇千景さんは切除手術 非浸潤性乳管がんなら“待機”もあり

扇千景さん(C)日刊ゲンダイ

 米国では、1970年代後半にマンモが通常の定期検診になるまで、DCISは1%以下。日本でもマンモが普及し、小さな石灰化の段階(微小石灰化)で発見されるようになり、今では新規乳がんの診断は、4分の1がDCISです。

 では、何が問題か。DCISは、上皮の外にがん細胞が浸潤していませんから、リンパ節や遠隔転移の可能性はありません。通常の「部分切除+放射線治療」、乳房全摘術までもが選択されることがありますが、「死に至る病気」ではないのです。DCIS診断後20年以内の乳がん死亡率は3・3%で、がんではない一般集団の死亡率とほぼ同じ。治療による延命効果はほとんどありません。一番大きなリスクは「過剰治療」なのです。

 仮に扇さんがDCISだとした場合、治療によって、乳房内の再発が抑制される可能性はあるものの、(生きているかどうかは分かりませんが)20年後、すでに低い死亡リスクがさらに低くなることはないと考えられます。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。