心の症状だけじゃなかった 「うつ病」よくある3つの誤解

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 うつ病は誤解が多い。それが治療を遅らせたり、患者の社会復帰を妨げる原因になっている。

 日本イーライリリーが「うつ病に関する患者調査」を行った。それによって浮き彫りになったのが、うつ病に対し「間違って理解している部分がかなりある」ということだ。調査方法はインターネットアンケートで、対象は、うつ病と診断され、現在は社会生活に復帰している、または復帰に向けて調整している男女517人。

 特に「よくある誤解」として3つの内容が認められた。

 1つ目は、「うつ病はメンタルが弱い人に起きる病気」という誤解。調査対象者の53%が、うつ病と診断される前にそう考えていた。診断後の現在では割合は減少し、「あてはまる」と回答したのは約28%。また、約6割が「うつ病になる可能性がある、と思っていなかった」と答えた。

 2つ目は、「うつ病は、気持ちの持ちようなので、自分で頑張れば治せる」という誤解。約31%が診断前に「あてはまる」と答えたが、診断後は約10%に減った。調査対象者の35%が最初に症状を感じてから医療機関を受診するまで6カ月以上かかっており、その理由のトップが「自分の頑張りや気持ちの持ちようで不調を解決できると思ったから」だった。

 3つ目は、「うつ病の症状は、気分が落ち込むことだけ」という誤解。「気分が重苦しい。泣きたくなる」や「いつもなら楽しいことが、気が進まない。やる気が出ない」といった精神的な症状については7割以上が医師に伝えていたが、「身体的な症状」については、ほとんど医師に伝えていなかった。

■「性格の問題」と考える場合も

 日本うつ病センター理事長で、国立精神・神経医療研究センター名誉理事長の樋口輝彦医師は「うつ病を気分の問題と短絡的に考えている。誤解を解くことが重要」と指摘する。特に「ほとんど知られていない」と樋口医師が言うのが、身体的な症状についてだ。

 うつ病でよく見られる身体症状は体全体に及ぶ。たとえば、頭痛・頭重は48~89%、便秘・下痢は42~76%、疲労・倦怠感は54~92%、睡眠障害は82~100%の患者に表れている。「着替えや歯磨きなど身の回りのことがおっくうに感じられてできない」という訴えもある。

「ところが、患者さんの多くはこれらの身体的な症状を医師に伝えていない。医師の側からいろいろ質問していくと出てくることもありますが、伝えなかった理由を聞くと、『うつ病の症状と知らなかった』『気持ちの問題だと思った』と言うのです」

 気持ちの問題だと思っているので、もっと頑張れば解決できると考える。周囲はもちろん、本人も「性格の問題だ」と考える場合もある。結果、なかなか病院に行かず、症状をこじらせ、診断された時は治療が困難になっているケースもある。

 15人に1人は経験するといわれるうつ病のメカニズムは、実ははっきりとは明らかになっていない。有力な仮説は、いじめや虐待といった幼児期の外傷体験などで脳の神経系のバランスが崩れているところに、思春期以降なんらかのストレスが加わり、うつ病を発症する――というものだ。

 いずれにせよ、「自分は絶対にうつ病にならない」とは言えない。うつ病患者の中には「明るく、ニコニコして笑顔が絶えないAさんが、まさかうつ病!?」と周囲に驚かれるケースもある。

 心身の不調を自覚した時、スムースに治療に入れるかどうかの分かれ目は、正しい知識を持っているかどうかにかかっている。それは、本人だけでなく、周囲にも言えることだ。

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