「多死社会」時代に死を学ぶ

「老衰死」は数年前に予測できる?

晩年の栄養量と体格指数(BMI)の関係
晩年の栄養量と体格指数(BMI)の関係(C)日刊ゲンダイ

 高齢者介護とは、ある意味「食べさせる戦い」だ。

「噛めない」「のみ込めない」高齢者を相手にあらゆる努力を惜しまず、チャレンジし、食べていただく。しかし、食べさせてもそれが身にならなければ、介護される本人にとっては苦しみでしかない。

 これまでに話を聞いた2人の医師によれば、老衰死する人は1週間~10日ほど前から水分や食事を一切取らなくなる。それは「食べたくても食べられない」のではなく、「食べたくない」「必要がない」から食べないのだという。

 しかし、老衰死する人の「食べたり、飲んだりする必要がない」時期はもっと前から始まっているのではないか? そんな疑問に答えてくれるのが、東京有明医療大学看護学部看護学科の川上嘉明准教授が作成した研究データ(図)だ。

 国内4カ所の介護保険施設で死亡した入居者131人を対象に、1日の食事量をカロリーベースに換算した数字、1日の水分量、BMI(体格指数)の変化を5年前までさかのぼってデータ分析したもので、対象者は全員が口から食べ、人工的な水分・栄養補給は施されないまま死に至っている。

「これを見ると、BMIは亡くなる5年ほど前から落ちていき、2年ほど前になると不可逆的・加速度的に落ちていきます。最終的に『やせ』と判定される18・5をさらに下回る人が大多数です。食事も亡くなる1年くらい前から徐々に減っていき、8カ月前から目に見えて落ち、1日あたり600キロカロリーを切ってきます。水分も同じです。注目すべき点は、1200キロカロリーはこの年代の要介護高齢者が生きていく上で十分な栄養量にもかかわらず、食べても体重がどんどん減っていることです」

■BMI、食事量、水分量が不可逆的、加速度的に落ちていく

 食べたものが体重維持につながらないということは、「栄養が体格を一定に維持することにつながっていない」ということにほかならない。

 必要のない栄養や水分は体外に排出されると考えられる。だとすると、介護のもう一つの戦いである「排泄の援助」についても、自然に任せれば介護者の負担も変わるのではないかと推測できるのではないだろうか。

 介護の現場では「食べさせないと死んでしまう」という考えが支配的で、遠くの親戚が介護をしているお嫁さんに「おまえが食べさせないから亡くなった」などと非難することもあるという。

 このデータを見る限り、食べさせる努力をいつまで続けるべきか、食べさせる量はどのくらいが適当かなど、立ち止まって考え直す必要があるのではないか。