天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓を鍛えるには心拍数130を超えない適度な運動が重要

順天堂大学医学部の天野篤教授
順天堂大学医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 心臓の機能を衰えさせないためには、適度な運動がとても大切です。体を動かすと、心臓はより多くの血液を体中に送り出そうとして、いつもより活発に動きます。心臓は筋肉でできていますから適度な負荷がかかることによってある程度は鍛えられるのです。ほとんど運動をせず、普段から心臓をサボらせている人は、加齢によって筋力が衰えてくると心筋も薄っぺらくなり、ポンプ機能や規則正しさを支えるペースメーカー機能も衰えてきます。

 心臓にトラブルを抱えている人にとっても、適度な運動は非常に重要です。とりわけ、心臓の手術を受けた患者さんは、再発予防のために欠かせません。

 心臓の手術を受けた後、患者さんは必ずリハビリを行います。医師や看護師の指導のもと、有酸素運動を積極的に取り入れ、少しずつ負荷を増やしていきます。どれだけまじめにリハビリに取り組んだかどうかで回復の度合いが変わってくるので、患者さんの多くはきちんとリハビリで体を動かします。

 退院後も、有酸素運動を続けることが再発予防につながります。そのため、中にはスポーツジムに通っている患者さんもいらっしゃいます。

 ただ、注意しなければならないのが、「心臓に負荷をかけ過ぎない」ということです。負荷をかけ過ぎない=適度な運動というのは、「心拍数が130を超えない」程度が目安です。この数値は、最大負荷のひとつ手前に当たる「亜最大運動負荷」と呼ばれています。手術を受けてからまだ間もないのに、亜最大負荷を超えるような運動をして痛みがぶり返し、病院に逆戻りしたケースもありますから、慎重さが必要です。

 とはいえ、運動している最中に、自分で「心拍数が130を超えた」と判断することは難しいといえます。ですから、しっかりと心拍数をモニターしながら体を動かすようにしてください。心拍数は血圧計で計測すればわかります。スポーツジムなら、大抵は血圧計が設置されているはずです。ある程度、体を動かしたら血圧計で心拍数を計測し、130を超えそうになったら休憩するのです。

「これ以上、負荷がかかると危ないぞ」というところで、胸痛などの自覚症状が出る人もいます。健康な人は、大きな負荷をかけると苦しくなって、心臓が口から飛び出しそうなほどバクバクします。これが、一般的な最大負荷といえます。しかし、心臓にトラブルを抱えている人は、その一歩手前の亜最大負荷で止めなければいけません。自覚症状が表れるのは負荷がかかり過ぎているケースも多いので、やはり小まめに心拍数を計測しながら運動するようにした方がいいでしょう。

■まだ寒い日は早朝に注意

 また、心臓リハビリの一環として、早朝からウオーキングをしている人も注意が必要です。だいぶ暖かくなってきましたが、3月から4月にかけては、朝晩になるとまだ寒かったり、急に冷え込む日もあります。また、太陽が完全に沈んでいる真夜中よりも、日射量の少ない日の出直後の1時間くらいが最低気温になることも多いので、その時間帯の運動には気を付けなければなりません。

 気温が低いとき、人間は血管を縮めて血流を減らし、熱を体外へ逃がさないようにします。血管が縮んで血液が流れにくくなると、心臓は血液を送り出すために大きな力が必要になります。つまり、気温が低いだけで心臓にかかる負荷は大きくなるのです。

 そのタイミングで体を動かせば、さらに大きな負荷が心臓にかかります。まだ寒い時季の早朝ウオーキングは、心臓にとっていちばん条件が悪い中で体を動かしていることになります。ウオーキングや運動をするなら、時間をずらして行うことをおすすめします。

 もっとも、怖がりすぎて体を動かさなくなってしまうと、心臓にとっては逆効果です。ラジオ体操などが“慣らし”としては最適といえます。担当医や看護師に相談しながら、適度な運動を続けましょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。