実は誤解や誤診も多い 「ADHD」を見極める3つのポイント

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 発達障害の一種「ADHD(注意欠如・多動症)」は、認知度が高まりつつあるが、誤解、誤診も多い。子供から成人までを対象にした発達障害専門クリニック「パークサイドこころの発達クリニック」(福岡)の原田剛志院長に聞いた。

 ADHDの特徴的な症状は〈注1〉の通り。一つ一つは誰にでも当てはまることであり、「疾患として特別視するのはいかがなものか」と質問する人も多いという。

 ほとんどの人は遅刻くらいしたことがあるだろう。しかし、週に何度も遅刻し、いくら自分を戒めても繰り返すようならADHDかもしれない。「ADHDの見極めで重要なのは、『度を越す』『慢性的に続く』『繰り返す』かどうかです」

 それによって、医療の対象となってくる。

 ADHD当事者の多くは「症状のために社会的信用を失う」→「自信喪失と自己評価の低下」→「慢性的なクヨクヨと後悔」→「不安やうつなどの2次障害。それによるさらなるパフォーマンス低下」→「社会的信用をより失う」……といった負の連鎖に陥っている。これを断ち切るのが、専門医による治療だ。

「ところがADHDは生まれつきのものなので、困りごとに気づいていない、何に困っているか分からない。彼らにとって、できないことが“普通”だからです。また、困りごとが分かっても、対処法を知らないことも多くみられます」

 説明も苦手な人が多いため、医師が「どんな症状でお困りですか?」と聞いても、適切な診断・治療にたどり着かない可能性がある。

「症状だけ見てもなかなか原因は分かりません。診断のためには、この患者さんはどんな人なのか、その人をストーリーで理解できる情報を得るようにします」

■治療の結果、起業した人も

 具体的には「来院のいきさつ」「今までどう対処してきたか」「これからどうしたいか」「家族歴」「薬やアルコールなどの物質使用歴やリストカット」「生活習慣病の有無」「生活歴」など。生活歴とは、乳幼児時代の様子、小学校までのエピソード、教育歴と高校以降の進路、就職、結婚、離婚などだ。

 ADHDは専門医の数がまだ十分ではなく、似たような症状の疾患との誤診や、併存症の見逃しもある。

①ほかの薬剤でADHDのような症状が出ていないか、閉塞性無呼吸症候群、甲状腺機能亢進症、知的障害、うつ病などと間違えていないか②ほかの発達障害の併存、統合失調症や双極性障害といった精神疾患の重複、ADHDの2次障害(不安、うつ、強迫など)がないか。これらを調べてもらえる医師のもとで診察を受けたい。

 原田医師に45歳の時にADHDと診断され、7年間治療を受けている執行泉さん(52)は、子供の頃からみんなが当たり前にできることができず、自己評価が極めて低かった。

 原田医師の診断・治療を受け、「特性は個性」と自己を肯定できるように。仕事の中で何を優先的に行えるか、何を人に任せられるかなど、原田医師のアドバイスで仕事がうまく回るようになった。自分の人生の目標が明確になり、起業するまでに至った。

「今は2種類の薬がありますが、執行さんが治療を始めた頃は成人に使えるものはありませんでした。しかし、自己理解、自己受容や環境調整をすすめることで、薬を飲む前から機能の改善がみられてきました」

 薬は治療のマストではない。悩んでいるなら一歩踏み出せば、世界が変わるかもしれない。

〈注1〉
■ADHDの典型的な症状
・いつも遅刻をする
・時間配分がうまくいかない
・同じ失敗を繰り返す
・家事や支払いなど当たり前のことができない
・大事なものほどなくす
・片づけができない
・思い込みで行動して失敗する

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