有名病院 この診療科のイチ押し治療

【お腹のヘルニア】国立病院機構村山医療センター・外科(東京都武蔵村山市)

国際病院機構村山医療センターの大石英人部長
国際病院機構村山医療センターの大石英人部長(提供写真)
癒着が少なく腸閉塞などの合併症が起こりにくい腹腔鏡の手術法を選択

 同院は、整形外科分野では国内屈指の病院(骨・運動器疾患の準ナショナルセンター)として知られる。その一方で、常勤外科医の定年退職によって2015年3月から約1年半、「外科」が休診状態だった。しかし、昨年秋に2人の一般外科医が赴任したことで再スタートした。

 大石英人部長は、前所属施設の東京女子医科大学八千代医療センターでは、日本内視鏡外科学会の技術認定指導医として若手医師の育成に力を注いできた。腹腔鏡を用いた内視鏡外科治療のエキスパートだ。

「当科が担う役割は、地域に根差した一般外科です。まずは発生頻度の高い『虫垂炎』『痔』『腹部ヘルニア』などの疾患を丁寧かつ確実に診療すること。特に低侵襲性外科治療をモットーにしています」

 同院には脊椎疾患などで治療に通う高齢の患者が多い。その世代の患者では、腹部ヘルニアの発生率も高くなる。腹部ヘルニアは、お腹の中の臓器を支えている筋肉が何らかの原因で弱くなったり、隙間ができたりして、腸の一部がポッコリ飛び出してしまう病態。その原因のひとつに、加齢によるお腹の筋肉の衰えがあるからだ。

「腹部ヘルニアの大半を占めるのは、太ももの付け根の鼠径部に起こるヘルニアです。ヘルニアは手術でないと治りません。放置して飛び出した腸が戻らなくなる『嵌頓』を起こすと、腸を切ってつなぐ緊急手術が必要になります。痛みを伴うヘルニアは早めに手術で治した方がいいのです」

■手術は1時間前後、入院は3泊4日

 手術には、お腹の表面を切開して筋肉の弱くなった部分を修復する前方アプローチと、お腹の内側からメッシュで補強する後方アプローチがある。同科が積極的に行っているのは腹腔鏡を用いた後方アプローチだ。

「腹腔鏡の後方アプローチでも、お腹の中から手術操作する『TAPP法』と、腹膜の外から手術操作する『TEP法』があり、私たちが積極的に行っているのは後者です。術後の癒着が少なく、腸閉塞などの合併症が起こりにくいからです」

 TEP法はTAPP法に比べて狭い術野での手術操作になるので、その分、高い技量が求められる。TEP法は、九州で導入されて普及し始めた術式で、関東で行う施設はまだ少ないという。しかも、同科のTEP法は、一度、腹膜の中から内視鏡で腹腔内をのぞいて、他にも治療が必要な部分がないかを確認してから行う。

 鼠径部にはヘルニアを起こしやすい部分が片側4カ所あり、同科の腹腔鏡手術では4カ所すべてをメッシュで補強する。

「手術で開ける小さな穴はヘソと下腹部2カ所で、挿入する内視鏡と器具は直径3ミリのものを使っています。手術時間は1時間前後。入院期間は若い人では翌日退院も可能ですが、念のため3泊4日(前日入院)にしています」

 腹部ヘルニアの腹腔鏡手術の再発率は、日本内視鏡外科学会の集計によれば全国平均は約4%。しかし、大石部長が行うヘルニア手術では、過去10年間の約600例(うちTEP法は全体の51%、近年は77%)中で2例のみ。再発の少ない低侵襲手術を実践している。

■データ
1941年に陸軍病院として発足。国立療養所村山病院を経て、2004年に国立病院機構の施設としてスタート。
◆スタッフ数=常勤外科医師2人
◆月間延べ患者数=70~80人