数字が語る医療の真実

肺がん検診の「CT検査」はハイリスク群向け

 肺がん検診は、誰にでもお勧めできるというわけではありません。一般に行われている検診は、「胸部X線」と「痰」の検査の組み合わせです。この方法では肺がんの死亡率が減るかどうか、はっきり示されていません。

 6つのランダム化比較試験を含む7つの研究を統合したメタ分析があります。結果は、検診を受けないグループの100人の肺がんによる死亡に対して、検診を受けたグループでは87人と少ない傾向にありました。ただ、統計学的に明確な差ではありませんでした。

 注意したいのは、これらの研究では検診群よりは少ないとはいえ、対照群に対しても胸部X線写真撮影が行われている点です。まったく何もしていないわけではないのです。

■「胸部X線「「痰」検診で死亡率が減るかは分からない

 これらの研究の対照群では、一般住民よりも肺がんの死亡率が、かなり低かったことも報告されています。一般的な住民と比べれば検診群での肺がん死亡は少なく、一概に肺がん検診に意味がないとも言えない結果です。

 一方、15年以上の喫煙歴があるような肺がんのハイリスク者を対象に、胸部のCT検査と胸部X線写真で、肺がん死亡を比較したランダム化比較試験があります。結果はCTによるがん検診により、100の肺がん死亡が80まで減ることが示されました。

 ただ、この研究での実際の肺がん死亡率を見てみると、6.5年で0.3%の肺がん死亡が0.25%まで減るというようなものです。CT検査での偽陽性の問題、被ばくによる他のがんの増加の問題、さらには生死に無関係ながんを発見してしまう問題などを考慮すると、いまだ一般的に勧められる検診ではありません。あくまで、肺がんの危険が高い人に限って検討すべきがん検診と言えるでしょう。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。