がんと向き合い生きていく

早期発見がカギ 胆のうがんは進行すると根治手術が難しい

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長
都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

「私のことをみんなが『黄色い』って言うんです」

 ある朝、Nさん(46歳・男性)から突然、病院に電話がかかってきました。化学療法によって腹腔内の悪性リンパ腫が完全に消えてから3年、再発なく外来通院で経過を見ていた患者さんです。

 2カ月前の採血検査、5カ月前の腹部CT検査でも問題はありませんでした。私は「正月にミカンの食べ過ぎだろうか?」とも思ったりしましたが、診察室に来られたNさんを見て、ぎょっとしました。黄色い!! 黄疸だ。白目も黄色くなっていました。

 本人は痛みも何もないといいます。さっそく、超音波、MRCP等の検査を行った結果、胆管が太くなって途切れていて、結局は「胆管がん」の診断でした。Nさんにはすぐに外科に入院してもらいました。幸いリンパ節転移はなく、早期であったことから手術で完治しました。胆管は7ミリほどの太さで、そこにできたがんが胆汁の流れを閉塞させ、黄疸をきたしたのでした。

 Nさんの場合は、悪性リンパ腫の経過を見ている検査の間に急に胆管がんができたのではなく、以前から胆管にできていたがんが次第に大きくなり、胆管を閉塞させることになって初めて、採血やCT等で異常が表れたと考えられます。胆管がんは早期でも黄疸をきたしやすいのです。

 胆のうは、胆汁をためて濃縮する袋で、胆管は胆汁を十二指腸に出す管のことです。合わせて「胆道」といいます。胃に食事が入ると胆のうの袋が収縮し、たまったたくさんの胆汁を胆管に出し、十二指腸に流れ出ます。

 胆汁には消化酵素は含まれていませんが、十二指腸で膵液と一緒になり、脂肪やタンパクを分解して腸からの吸収をしやすくするのです。便が黄色いのは胆汁によるものです。

 ですから、黄疸が表れた時は便の黄色みはなくなり、白くなります。

 胆道がんには「胆管がん」と「胆のうがん」があります。胆管がんは、Nさんのように早期でも黄疸をきたすことがあるため、その際に見つかりやすいといえます(肝内胆管がんは別)。

 しかし、胆のうは袋ですから、そこにがんができても早い時期には黄疸症状はないことが多く、見つけにくいのです。また、胆のうの筋層には粘膜筋板という組織がなく、胃や腸の壁よりも薄いことから、がんが周りに広がりやすい傾向があります。そのため、胆のうがんでは進行した状況で見つかることが多いのです。

 胆のうがんの症状としては、腹痛、全身倦怠感、食欲低下、下痢、そして黄疸、全身のかゆみなどがあげられます。胆のうがんの半数以上の人が胆石を持っていて、胆石や胆のう炎の症状からがんを発症することがあります。胆石を持っている人は、胆石のない人に比べて10倍高い頻度で胆のうがんになるといわれています。最近は、先天的に膵管と胆管の合流異常があると、胆道がんが発生しやすいことも分かっています。

 先日、72歳で亡くなられた俳優の渡瀬恒彦さんの胆のうがんが見つかったときは、すでにステージ4だったそうです。おそらく、その時点ですでにリンパ節へ転移し、周りの臓器にがんが浸潤していたのではないかと思われます。

 進行した胆のうがんは根治の手術が難しいことから、早く発見して手術で完全に切除できるかがカギになります。進行したがんでの手術では、胆のうだけではなく、膵肝同時切除といった長時間に及ぶ大手術が行われることもあるので、やはりできるだけ早く発見することが重要なのです。

 手術でもがんを切除できない場合は、胆汁を体外に出す(ドレナージ)処置や、内視鏡で胆管を広げる(胆管チューブ)など、黄疸を減らすための処置が行われることがあります。

 化学療法は「ゲムシタビン」や「S-1」などの抗がん剤がありますが、著効を得られることは少ないといえます。放射線治療も状況により試みられていますが、なかなか完治には至りません。

 進行した胆のうがんは、膵臓がんと同じように難治性のがんなのです。だからこそ、がん検診などでの早期発見がとても大切です。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。