「多死社会」時代に死を学ぶ

現役おくりびとに聞く「現代の死」 増える直葬に違和感

時代の変化と共に葬儀も変わっていくのか
時代の変化と共に葬儀も変わっていくのか(C)日刊ゲンダイ
葬儀は生きている人が感謝を表す場所

 第81回アカデミー賞外国語映画賞や第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「おくりびと」(2008年=主演・本木雅弘)は、納棺師を主人公にした重い映画である。

 社会的な認知度がまだ低い「納棺師」とは、遺体の顔や体を美しく整え、「あの世に旅立つ」装束を着けて棺に納める請負人を指す。

 料金は平均5万円前後だが、基本のメークや装束の着せ替えのほか、遺族の要望で頭髪のシャンプー、ひげそり、湯灌(簡易の風呂に入れて体を洗う)などが加わると、料金が加算されてくる。

 先の映画「おくりびと」の主演俳優に、納棺の技術指導をした人物は現職の納棺師であった。1987年に納棺師になり、これまで3万体以上の納棺を経験している木村眞二氏である。

 出生地の北海道を中心に淡々と納棺師を続けていた木村氏を支えてきた人物が、子息の光希氏だった。

 大学では経営学部に籍を置きながら、学生時代から父に同行して納棺の所作、作法を学んだ。

「父の姿を見ていて幼少の時期から納棺の職に憧れ、敬意を抱き、大学卒業後にこの道を選択しました」

 葬儀社などから「納棺師」の依頼がある一方で、木村氏は韓国、中国、台湾などからの要請で、「納棺」の技術指導を行ってきた。4年前には「㈱おくりびとアカデミー」(本社=東京・日本橋)を設立している。

 業種を大きく2つに分け、1つは納棺師の養成学校、もう1つは3年前に設立した納棺師を実際に派遣する「ディパーチャーズ・ジャパン㈱」(本社=同)である。

 札幌、静岡、新潟、愛知などに7店舗を擁し、この春には都内にもオープンするなど、経営は順調な滑り出しだ。

「ご遺体は病院、自宅、老後施設、警察署、それに大使館を経由して飛行場でも受け取ることがあります」と語る木村氏は近年、少しずつ増える傾向にある「直葬」について、若干の違和感を抱いている。

 直葬とは、亡くなった場所(病院や自宅など)から直接火葬場に搬送される簡素化された葬儀。親族や友人らが参列する「お通夜」の類いをカットする。表現が悪いが、死んだら死亡診断書を受け取り、すぐに焼いてしまうという葬儀だ。葬儀費用の節約や、核家族などの反映で、親戚付き合いにも大きな変化が起こっているのも確かである。

「でもね、人間の尊厳を重くみた時、直葬はどうでしょうか。亡くなるとは、悲しみの場であることは間違いありません。しかし、葬儀はむしろ、ここまで生きてくれた感謝の気持ちを大切にし、少しでも命の終章に寄り添ってあげてもいいのではないでしょうか」

 病院や自宅から遺体を引き取る時に、特に旅立つ女性にはきれいに化粧をしてあげたいと思う。ところが直葬どころか、生活保護や、遺族の経済的事情で、「お断り」されることがあるという。

「少し寂しい思いをすることがあります」