共働き家庭は要注意 老親の「孫離れうつ」をどう防ぐか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 認知症と並んで高齢者に多い病気のひとつに「老年期うつ病」がある。その引き金には定年退職や失業、配偶者との死別などが挙げられるが、最近目立ってきているのが「孫離れうつ」だ。どんなうつ病なのか、専門医に聞いた。

 高齢になって発症するうつ病で多いのは「喪失体験」をきっかけとするもの。老年精神医学を専門とする北里大学北里研究所病院・精神科の高橋恵部長は「孫離れうつも、そのひとつのタイプ」と言う。

「両親が共働きする家庭が増えて、保育園の空きもなく、子供の世話を祖父母がしているケースが一定数います。そのような家庭で孫の面倒に生きがいを感じていた祖父母が、孫が成長して役割を失うと、その喪失感からうつ病を発症してしまうことがあるのです」

 孫離れの喪失感は、保育園や幼稚園の送り迎えをしていて小学校に入学したことで感じるケース、思春期や反抗期を迎えて「ババア」「うざい」などの暴言を言われて感じるケース、孫が社会人になって家を出ることで感じるケースなど、人によってさまざまだという。

「逆に、うつ病だった高齢者が、孫が大学生になって同居するようになって症状が改善するケースもあります。とはいえ、その同居がストレスになる場合もあるので、人によってプラスにもマイナスにもなります。いずれにしても前の生活と今の生活の落差が激しいと、うつ病発症のきっかけになりやすい。新年度を迎える春は、その転機になるので注意が必要です」

 孫離れうつの予防は、とにかく孫の世話だけにのめり込まないこと。自分の趣味や他者との交流の時間を増やして、孫がいなくなっても孤独にならない生活スタイルを維持しておくことが大切になるという。

「80代くらいになると、だんだん体力的に遠出ができなくなって他人との交流が少なくなり、孤独になる人が多い。ですから隣近所など、60代くらいから自分の住んでいる地域での交流を少しずつつくって、大事にしてもらいたいと思います」

 老年期うつ病は、周囲から見ても認知症なのか、うつ病なのか分かりにくい。しかし、認知症では「抑うつ気分」はあまり強くなく、自分の能力低下をとりつくろう(認めない)傾向がある。記憶障害を強く自覚するようなら、うつ病の可能性が高いという。

 次の症状があるようなら受診した方がいい。

①何をやっても楽しくない
②食欲がなく、体重が減る
③眠れない(高齢者では朝早く起きてしまう睡眠障害が多い)

■認知症リスクが2倍に

 ただ、高齢者は精神科の受診に抵抗感があり、自ら受診しない人が多いのも問題だという。

「70代、80代の方は“気の病”は病気ではないと思っている人が多い。しかし、この世代に起こりやすい腰痛や膝痛などの持病の痛みはうつ病のリスクファクターになります。また、痛みを訴えて検査しても異常がなく、実は心の病が痛みの原因ということも少なくありません」

 孫離れうつでは軽症の場合が多いので、実際に受診しても薬は使わず、環境を整えるだけでよくなるケースもあるという。

 たとえば、本人がやりがいを持って参加できる地域ボランティアなどの活動を探す。孫の代わりとなる“生きがい”を見つけるのだ。

「うつ病になった人は、2倍、認知症になりやすいといわれます。運動や他者との交流を積極的に行うことは認知症の予防にもなるのです」

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