その研究対象になった食道がんと同じような状態で再発した方だと、余命9カ月ということですが、結果の裏に大きなバラつきがあることが分かるでしょう。余命を「中央値」で表現することの問題がこれです。
目の前の患者が、研究対象となった患者と同じ病状であるはずはなく、医師は「神」でも「占い師」でもありません。余命告知には、限界があるといえます。
がんで亡くなる人は年間37万人を超え、死因のトップ。心筋梗塞や交通事故などのように突然の死ではなく、“ゆっくりと迫りくる死”という点で、ほかの病気と大きく異なります。がんによる死は、必ず受け入れる準備が必要なのです。そこに、余命告知が広く普及した要因があります。
一方、日本でも海外のように医療訴訟が増える傾向で、余命もその対象の一つ。告知した余命期間を全うせずに患者が亡くなると、医師は裁判に訴えられる恐れがあります。そうすると、どうなるかというと、余命は比較的短く告知されることがありうるのです。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁